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連載 被爆70年

ヒロシマは問う NPT再検討会議を終えて <下> 核廃絶の行方 「傘」に安住 日本へ疑念

 米ニューヨークの国連本部で4週間にわたって核軍縮の方策を討議した核拡散防止条約(NPT)再検討会議。最終日の5月22日、全体会議で決裂が確実になった後、オーストリア外務省のアレクサンダー・クメント軍縮軍備管理不拡散局長が発言を求めた。「核兵器の禁止、廃絶に向けた『法的な隙間』を埋めるため効果的な措置を追求する」。核兵器禁止を諦めない、との明確な意思表示だった。

 オーストリアは、核兵器の非人道性を訴えて法的禁止を目指す同志国の「人道グループ」を主導する。今回の会議には、禁止への努力を誓う文書「人道の誓約」を提出。反核非政府組織(NGO)と緊密に協力し、会期中に自国以外の106カ国へ賛同を広げた。NPT加盟191カ国・地域の過半数となり、今後、法的禁止の議論を本格化させる上での土台を築く「成果」を挙げたとされる。

 人道グループの精力的な非核外交の成果は、幻となった最終文書案にもある。「核兵器なき世界」を実現するため、9月から始まる国連総会に法規制を含めた「効果的な措置」を特定する作業部会を設けるよう勧告する、との内容だ。保有国が参加しやすいよう、コンセンサス(合意)方式を採用するよう明記し、関係国の合意も取り付けていたという。これを踏まえ、いずれかの国が国連総会に提言すれば、部会で核兵器禁止条約の交渉開始などを討議できる可能性を残した。

 「核兵器禁止をめぐる外交交渉がきっと始まる」。NGO核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のアジア太平洋担当ティム・ライト氏はそうみる。そして「核の傘の下の国は国際社会のプレッシャーにさらされるようになる」と指摘する。

削除 冷めた反応

 日本は「人道の誓約」に賛同していない。安倍晋三首相は日本の安全保障政策と矛盾するとの理由から、3月の参院予算委員会で協力しない考えを強調していた。「唯一の戦争被爆国」を掲げて廃絶を訴えながら、米国の「核の傘」の下に安住する―。日本政府の矛盾した非核外交への厳しい視線は、世界の指導者らに被爆地訪問を促した日本の提案が中国の反対に遭った際、他の加盟国やNGOの冷めた反応にも表れた。

 最終文書の初期の案で、広島、長崎の地名を挙げて被爆者の声に耳を傾けるよう促した記述に、中国が「日本が加害の歴史を覆い隠そうとしている」と反発し、削除される事態に。核軍縮交渉の場で歴史認識問題を持ち出した中国への批判はあるが、日本への同情もさほど広がらなかった。海外のNGOの関係者は背景をこう読み解く。「日本政府は『核の傘』にしがみついている。核軍縮をリードしているとアピールするために被爆地を利用しているようにさえ見える」

従来主張に終始

 被爆地訪問の記述復活を目指す外交攻勢の陰で、日本政府は核軍縮をめぐり「近道はない」「現実的かつ実践的な取り組みを積み上げる必要がある」と従来の主張に終始した。被爆者が身を削って訴えてきた核兵器の非人道性への理解が世界で浸透する今、日本に対して非核政策の変更を迫る声が高まるのは必至だ。

 世界160カ国・地域の6675都市が加盟する平和首長会議の会長として、広島市の松井一実市長は5月1日にあった再検討会議公式行事のNGOセッションで、核抑止に頼る安全保障体制からの脱却を各国政府に要求。「核兵器の廃絶とそれを可能にする国際環境づくりへともに取り組む時だ」と呼び掛けた。被爆地を挙げて、日本を、世界を、廃絶へ後押ししなければならない。(田中美千子)

核兵器の非人道性と不使用を訴える動き
 前回2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が核使用による人道上の破滅的結果に懸念を表明し、非人道性をめぐる議論が活発化。12年、NPT再検討会議の第1回準備委員会で、スイス、オーストリアなど16カ国が非人道性に焦点を当てて核兵器の非合法化に向けた努力を訴える共同声明を出した。同趣旨の声明は今回の再検討会議で6回目となり、最多の159カ国が賛同した。ただ、核兵器の不使用を言いながら非合法化には触れていない。日本は13年10月の4回目から加わった。「人道グループ」の主導国による「核兵器の非人道性に関する国際会議」も計3回、開かれた。

(2015年6月1日朝刊掲載)