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連載 被爆70年

[ヒロシマは問う 被爆70年] 日韓の市民協調を 北東アジア非核化の道筋 被爆2世の前韓国総領事

 日韓関係の現状について考えを問うと、温和な表情が曇った。「首脳間だけでなく、市民感情もこじれている。今のままではいけない」。広島で3年間、韓国総領事を務め、昨春帰国した辛亨根(シンヒョングン)さん(61)。ソウル市内の事務所で取材に応じた。

 「米中ロに北朝鮮と、核保有国に囲まれた中で核兵器を持たない韓国と日本。この2国がいがみ合っていて、どうして核兵器廃絶への展望が開けますか」

 辛さんは被爆2世。広島で被爆した父の泳洙(ヨンス)さん(1999年に80歳で死去)は韓国原爆被害者協会の会長を務め、核兵器の残虐さを訴えながら、被爆者援護を求める運動の先頭に立った。「父たちの闘いを、心ある日本の市民が献身的に支えてくれた」。在外被爆者への援護拡充は「被爆者はどこにいても被爆者」を合言葉に、日韓市民の協力が切り開いてきたと確信する。

 だが近年、両国間では「嫌韓」「反日」の応酬ともいえる状況が続く。韓国人を主なターゲットに日本の街頭で繰り広げられるヘイトスピーチ(憎悪表現)は韓国でも大きく報じられ、従軍慰安婦問題などにまつわる反日感情をあおる悪循環がある。

 「市民間の協力を立て直し、政府間の友好を促さないといけない。北東アジアの平和はその先にある」。元外交官として辛さんは強調する。(道面雅量)

(2015年4月25日朝刊掲載)