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連載 被爆70年

[ヒロシマは問う 被爆70年] 南の島の訴え

 核兵器保有国が国際法上の核軍縮義務に違反しているとして昨年4月、国際司法裁判所(ICJ)に提訴したマーシャル諸島。かつて米国が核実験を67回した小さな島国による「核兵器のない世界」を目指す訴えだ。それは、終わりのない核被害とその償いの問題を、国内外に問うている。(藤村潤平)

実験半世紀 苦難は続く

■島民 記憶の故郷「帰りたい」

 米国がマーシャル諸島で繰り返した核実験は、「真珠の首飾り」と呼ばれるサンゴ礁の島々とそこで暮らしていた島民に深い爪痕を残した。1958年の最後の実験から半世紀以上が過ぎた今も、苦難の歴史は続いている。

 「西の空から太陽が上がって何だろうと思った。そうしたらドーンと大きな音がして、ヤシの木が揺れて…」。ロンゲラップ環礁出身で、今は首都マジュロに暮らすレメヨ・アボンさん(74)は、日本のマグロ漁船第五福竜丸も被曝(ひばく)した54年3月1日の水爆実験を鮮明に覚えている。

途絶えた文化

 67回の実験で最大級の核爆発は、実験場だったビキニ環礁のサンゴを砕いて巻き上げ、東へ約170キロのロンゲラップにも放射性降下物が降り注いだ。いわゆる「死の灰」は、島民86人(うち4人は胎児)の体をむしばみ、先祖伝来の土地を汚染した。

 島民の健康状態を調査した米医師団の報告などによると、被曝13年後の67年までに、当時10歳以下だった19人中14人が甲状腺障害を発症。流産、死産する妊婦も急増した。

 当時13歳だったアボンさんもがんで甲状腺を切除し、2回の流産を経験した。「核兵器によって人生を狂わされた。米国は信用できない」。一部除染が終わったロンゲラップに戻る気持ちにはなれない。かつて米国の「安全宣言」に従って帰島した後、健康被害が相次ぎ、再び島を脱出した苦い記憶があるからだ。

 故郷の豊かな自然や伝統文化を子や孫につなぐことができなかった悔しさが募る。アボンさんは「残したくない負の遺産を引き継がせてしまうのか。核兵器はなくさなければいけない」と口を真一文字に結んだ。

強制的に退去

 実験場になったビキニ環礁の167人は、強制的に住み慣れた土地を退去させられた。島民とその子孫の約700人は今、南東約760キロにあるキリ島に暮らす。米エネルギー省(DOE)との会合のためマジュロを訪れていたイチロー・マークさん(72)は「食料に乏しい孤島は大変だ。荒天のため配給が届かず、飢餓状態に陥ったこともある」と厳しい生活を語る。

 無人島だったキリは、マーシャル諸島の多くの環礁とは異なり、穏やかな内海がない。ヤシガニなどの食材に恵まれず、米国が補償のため購入費を負担する缶詰類が食事の中心だ。高波が打ち寄せる島には、天候が荒れると輸送船は近づけない。伝統のカヌーで漁をする文化も絶えた。

 実験終了後にビキニの除染作業を進めた米国は68年、ロンゲラップと同様に「安全宣言」を出した。帰還した島民は学校や教会を建設したが、尿からプルトニウムが検出されるなどし、米国は78年に宣言を取り消した。ビキニは再び閉鎖された。

 「住み慣れた場所に戻りたい。難しいなら、せめて食料に不自由しない豊かな土地に移りたい」。マークさんは目を潤ませながら、切々と訴えた。幼い記憶に刻まれた自然豊かな古里。半ば諦めのにじむ言葉が、過酷な人生を表している。

明星大・竹峰誠一郎准教授に聞く

提訴 国際政治動かす可能性

 マーシャル諸島による提訴を被爆国はどう受け止めるべきなのか。現地で核被害の調査を続ける明星大(東京都日野市)の竹峰誠一郎准教授に聞いた。

 ―マーシャル諸島が核兵器保有国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴した意味は。
 太平洋の小さな島国としての誇りと尊厳を懸けた闘いだ。核超大国の米国の援助で成り立っている国ではあるが、核被害を身をもって知る国として、国際社会の一員として、上げるべき声を上げた。小さな国が単独で声を上げても限界があるが、そこで核兵器廃絶を求める国際的な非政府組織(NGO)と連携した。巧みな外交戦略だ。

 提訴の背景には、行き詰まった米国に対する核被害の補償問題を動かす思惑もある。マーシャル諸島の存在感が高まれば、自然と核被害にも関心が集まる。実際に昨年末には、米紙ニューヨーク・タイムズに特集記事が載った。4月末に始まる核拡散防止条約(NPT)再検討会議でも、同国の政府代表演説が注目されるだろう。

 ―日本では、同じ核被害を受けたマーシャル諸島への関心が必ずしも高いとはいえません。
 マーシャル諸島で核実験が始まったのは、広島、長崎への原爆投下から1年にも満たない1946年7月だった。米国から見ると、この三つの場所は核兵器開発の連続性の中にある。米国の核開発は、マーシャル諸島なくしてはあり得なかった。広島への原爆投下とは何だったのかを考える上でも、同国の存在を見過ごしてはいけない。

 マーシャル諸島の人たちは、被爆地に思いを寄せている。米国の調査で「問題はない」と言われても、被爆地なら自分たちの痛みや不安を理解してもらえると思うからだ。広島、長崎が培ってきたケースワーカーによる相談制度などの援護策は、マーシャル諸島でも必要とされている。知見や蓄積を生かすべきだ。

 ―専門家の間では「無謀な提訴だ」との指摘もあります。どう考えますか。
 裁判に勝つか負けるかでこの問題を考えるのは、狭い現実主義だ。提訴がきっかけになり、国際政治を動かす可能性は十分ある。被爆地はマーシャル諸島の行動力に学ぶべきだ。人口約5万3千人の島国は、ある種の身軽さで世界にインパクトを与えた。

 マーシャル諸島が提訴したのは、第五福竜丸なども被曝した水爆実験ブラボーから60年を迎えた直後の昨年4月だった。核被害の歴史を受け止め、被曝国として新たな一歩を踏み出した。継承とは、時間と空間を超えて過去の歴史を生かし続けることだ。被爆70年を迎える日本も、国レベルや市民レベルで何ができるかが問われている。

たけみね・せいいちろう
 1977年、兵庫県伊丹市生まれ。早稲田大大学院アジア太平洋研究科修了。三重大研究員を経て2013年から現職。グローバルヒバクシャ研究会共同代表。近著に「マーシャル諸島 終わりなき核被害を生きる」。専門は平和学・国際社会論。

負の遺産 解決へ全力

クリストファー・ロヤック大統領

 マーシャル諸島の大統領として初めて、昨年2月に広島市を訪問した。原爆資料館の見学と被爆者の証言が印象深かった。広島、長崎の経験こそが、世界の他の場所が再び同じような被害に遭わないための抑止となるべきだった。それなのに、広島、長崎の原爆投下の後、マーシャル諸島で核実験が行われたのは遺憾だ。

 私は1970年代に法律家として、核実験場で被害を受けたロンゲラップ環礁などをよく訪れていた。放射線障害や放射性降下物の影響に関する知識は持っているつもりだったが、広島の訪問で、核兵器の被害や影響への知識をさらに深めることができた。

 マーシャル諸島では、放射性降下物(死の灰)を浴びて急性症状が出た人や流産を繰り返した女性の証言を聞く機会があるだけで、資料館などはない。広島のような施設があった方がいいとあらためて感じた。米国から提供された資料には、高レベルの放射性降下物などを浴びた人の情報しかない。しかし、私はマーシャル諸島全土が被害を受けていると思う。

 今後、さまざまな方策を通じ、米国に対して正義と補償を引き続き求めたい。核の負の遺産の問題を解決しなければならない。政府が要請した国連人権理事会の調査により、2012年には米国に事実上の追加補償を促す特別報告書が出されている。(オセアニア地域の協力機構である)「太平洋諸島フォーラム」加盟国の支持なども得て交渉し、補償を実現させたい。(談)

<マーシャル諸島と核をめぐる主な動き>

1914年10月 日本軍がドイツ領のマーシャル諸島を占領し、実質的な統治
         を開始
  44年 2月 米軍がマーシャル諸島を制圧
  45年 8月 米国が広島、長崎に原爆投下
  46年 3月 ビキニ環礁での原爆実験のため、米国が島民167人を強制
         退去
      7月 米国がビキニ環礁で原爆実験を始める
  47年 7月 米国の信託統治を国連が承認。米原子力委員会が、マーシャ
         ル諸島に「恒常的な核実験場を設ける」と発表
  48年 4月 エニウェトク環礁でも核実験を開始
  52年11月 米国がエニウェトク環礁で史上初の水爆実験
  54年 3月 ビキニ環礁で水爆実験ブラボーを実施。第五福竜丸などが被
         曝。風下のロンゲラップ環礁の島民は、米国が島外に移送
  57年 6月 米国の安全宣言により、ロンゲラップ環礁の元島民が帰島
  58年 7月 米国の核実験が終了
  83年 6月 核実験被害への補償を含む自由連合協定を米国と締結
  85年 5月 ロンゲラップ環礁の島民325人が残留放射能による健康被
         害を理由に離島。無人のメジャト島へ移住
  86年10月 米国の自由連合盟約国として独立
2003年 4月 米国との新自由連合協定を締結。核実験被害への追加補償は
         盛り込まれず
  10年 7月 ビキニ環礁が世界文化遺産に登録
  12年 9月 国連人権理事会が、米国に事実上の追加補償を促す報告書を
         発表
  14年 4月 核兵器保有9カ国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴

核被害国 責務見つめる

■提訴 補償めぐり割れる賛否

 「核の恐ろしさを知っていれば、当然の行動ではないか。核軍縮が遅々として進まない中で、声を上げない理由はない」

 日本から南東約4500キロにあるマーシャル諸島の首都マジュロ。トニー・デブルム外相(70)は、サンゴ礁に囲まれた穏やかな内海を望む自宅のバルコニーで、きっぱりと言い切った。静岡県焼津市でピーター・アンジャインさんが一島民として発したのと同じ訴えを、政治家として世界に発信する。

 人口約5万3千人の島国が、核兵器保有国9カ国をICJに提訴したニュースは、世界に驚きをもって受け止められた。しかも米国とは自由連合協定を結んでおり、国家予算の約6割をその経済援助に頼っている。

 今回の提訴を政府内で主導したデブルム氏は「核被害国としての責務がある」と強調。核拡散防止条約(NPT)の核軍縮義務を十分に果たしていないとみる米国に対し「長年の友人として、もっと真剣に取り組むべきだと助言したのだ」と説明する。

 提訴は、米国の非政府組織(NGO)「核時代平和財団」や国際反核法律家協会(IALANA)がサポート。全米市長会議が支持を表明したほか、反核平和団体の国際平和ビューロー(IPB)が提訴をたたえて賞を贈るなど、市民社会を巻き込んだ動きへと広がっている。

賠償を求めず

 ただ、国内の受け止めは賛辞一色ではない。提訴の文書に「核被害への賠償は求めない」と明記したからだ。

 米国は1983年、信託統治から独立を目指すマーシャル諸島と自由連合協定を締結。ビキニ、エニウェトク、ロンゲラップ、ウトリックの4環礁に対する核実験被害を認めた。補償金として1億5千万ドルを支払った。

 協定の締結で核被害は「完全決着」とされた。その後、4環礁以外の被曝(ひばく)が公文書で明らかになろうと、国連人権理事会が勧告しようと、米国は追加の補償に一切応じていない。当初の補償金を元手にした基金も2009年に枯渇し、島民は医療給付などを受けられない状態が続いている。

 そんな状況下の提訴に、国内では不満もくすぶる。ロンゲラップ環礁選出のケネス・ケディ上院議員(43)は「追加の補償は要らないという誤ったメッセージを与えないか」と懸念する。島の一部は除染されたが、放射能を恐れる島民は61年たっても帰還していない。「もっと広範囲での除染が必要だ」と訴える。

「お金は要る」

 ウトリック環礁選出で、日系3世のヒロシ・ヤマムラ上院議員(51)も「米国を怒らせたら元も子もない。お金は要る」と率直に口にする。島は除染されないまま、300人以上が暮らしているという。

 ただし、両氏とも米国から追加補償を得るための確かな方策が描けているわけではない。ケディ氏は、記者に向かって「あなたのように海外のメディアが関心を寄せてくれているという面では、提訴の意味はある」とも語った。

 核の恐ろしさを知る国としての責務と、果てしない核被害に揺れるマーシャル諸島。ICJへの提訴には、利害関係国としてNPT加盟国の訴訟参加が認められている。デブルム氏は、「核時代のきょうだい」と呼ぶ被爆国日本への思いを語った。

 「マーシャルが米国の経済援助に守られているように、日本は米国の核の傘に守られている。しかし、核兵器による悲劇を繰り返してはいけないという気持ちは同じはず。固く結び付いて、なすべきことがあるのではないか」

提訴の流れと展望 「核軍縮義務」争点の一つ

 マーシャル諸島によるICJへの提訴は現在、書面での手続きが進んでいる。

 核軍縮義務違反で提訴されたのは、核軍縮義務を課すNPTに加盟する米国、ロシア、英国、フランス、中国。さらに、NPTに加盟せずに核兵器を持つインド、パキスタン、イスラエル、核実験を繰り返す北朝鮮の計9カ国だ。NPT未加盟国にも、国際慣習法で確立している核軍縮を履行する義務があるとして訴えた。

 このうち、裁判は英国、インド、パキスタンを中心に進む情勢だ。この3カ国は、提訴された場合に裁判を必ず受け入れるICJの「強制管轄権」を受諾しているからだ。残る6カ国は応訴せず、審理は進展しない可能性が高い。

 ただ、ICJの管轄権を受け入れている3カ国でも対応は異なる。インドとパキスタンは「国家主権に関わる問題」などは例外としており、核兵器保有に管轄権は及ばないと主張。ICJは、それぞれ6、7月までに答弁書の提出を求めているが、両国が応じるかどうかは不透明だ。英国は管轄権に反発するような主張はしておらず、提出期限の12月までに答弁書を提出するとみられる。

 対英国の裁判では、NPTの核軍縮義務の解釈が争点の一つになる。NPT加盟国は、ICJの規定に基づき、当事者として訴訟に参加する権利を与えられる。参加は、口頭手続きの期日前までとされており、期限は来年以降となる見込みだ。被爆国日本や、核兵器の非人道性に関する共同声明を主導してきた核軍縮に熱心な国々の対応が注目される。

 マーシャル諸島はまた、ICJへの提訴と同じ昨年4月、米国に対しても米カリフォルニア州の連邦地裁へ同様の訴訟を起こした。しかし、連邦地裁は2月までに「政府に対して核軍縮交渉を行うよう命じる立場にない」として、提訴を却下している。

日本の反応 「事態を注視」政府は距離

 マーシャル諸島のICJへの提訴に対し、被爆国日本の反応は鈍い。日本などNPT加盟国は、ICJの規定に基づき訴訟への参加が認められている。国内では一部のNGOなどが支持を表明。しかし政府は「事態を注視する」などと距離を置く。「唯一の戦争被爆国として核軍縮をリードする」と世界に向けて訴える姿は、かすんで見える。

 第五福竜丸などが被曝したビキニデー(3月1日)を控えた2月27日。岸田文雄外相(広島1区)は、記者会見で「まだ書面手続きが開始された段階だ」と述べ、マーシャル諸島の提訴への見解を示そうとしなかった。

 政府は、核軍縮について「現実的かつ実践的に取り組む」との立場だ。裏を返せば、日本に「核の傘」を差し出す米国など核兵器保有国も含めて幅広く理解が得られる手法でなければ、基本的には同調しない姿勢である。

 ただ、岸田氏は「(訴訟の)今後の展開などを踏まえた上で判断すべき問題だ」とも述べ、提訴という手法を明確に否定もしなかった。あいまいな態度に終始するのは、国内外の世論の動向を気にしているからに他ならない。

 政府には苦い経験がある。2013年4月、80カ国が署名した「核兵器の人道的影響に関する共同声明」への賛同を見送り、被爆地をはじめ国内外から非難が集中。半年後、同趣旨の共同声明に一転して賛同した。マーシャル諸島の提訴への支持が、国際社会で今後いかに広がるかを見極めたいとの思惑がある。

 一方で、国内のNGOなどには、支持の声が起こりつつある。日本反核法律家協会は昨年7月、マーシャル諸島の提訴を支持する声明を発表。東京の在日大使館にメッセージを届けた。創価学会も512万人分の賛同署名を集め、12月にウィーンであった核兵器の非人道性に関する国際会議でトニー・デブルム外相に手渡した。

 反核法律家協会の大久保賢一事務局長は「世間の関心を高め、日本政府を訴訟に参加させるチャンスだ」と訴えている。

日本船の被曝未解明
 1954年3月1日に米国がマーシャル諸島ビキニ環礁でした水爆実験。日本国内では、放射性降下物(死の灰)を浴びた静岡県焼津市のマグロ漁船第五福竜丸に注目が集まったが、同じ太平洋の海域には延べ約千隻の日本船がいたとされる。被曝の全容は解明されていない。

 昨年9月、追跡調査を続けてきた太平洋核被災支援センター(高知県宿毛市)の情報公開請求により、厚生労働省は計1900ページの関係文書を開示。延べ556隻の被曝状況の検査結果などが明らかになった。被曝線量について、国は「がんなどのリスクが高まる国際基準より大幅に低い」と説明する一方、一部の専門家は「内部被曝などが考慮されていない」と反発する。

 厚労省は1月、あらためて第五福竜丸以外の元船員の被曝状況を評価する研究班を設置。開示資料や当時の文献を基に被曝線量を推計する作業を始めている。

マーシャル諸島での核実験
 米国は1946~58年、中部太平洋マーシャル諸島のビキニ、エニウェトクの両環礁で67回の原水爆実験をした。旧ソ連との核開発競争の下、爆発の総出力はTNT火薬換算で計108メガトン、広島原爆の約7千発分に相当。中でも54年3月1日の水爆実験「ブラボー」は爆発力が広島原爆の約千倍の15メガトンで、大量の放射性降下物をまき散らした。周辺の島民は、事前の避難勧告などなく被曝した。日本の遠洋マグロ漁船も被曝し、第五福竜丸の無線長だった久保山愛吉さんは半年後に死亡。原水爆禁止運動のきっかけとなった。

国際司法裁判所(ICJ)と核兵器をめぐる議論
 オランダ・ハーグにあるICJには、国家間の国際紛争を法的に解決したり、国際機関の求めに応じて勧告的意見を述べたりする権限がある。核兵器をめぐっては、1994年の国連決議を受けて審理。平岡敬広島市長(当時)が法廷で国際法に違反すると陳述した一方、日本政府は違法とは主張しなかった。96年に出た勧告的意見は「核兵器の使用や威嚇は、国際法や人道に関する法律に一般的に違反する」。ただし、国家が存亡の危機にある極限状況で、自衛が目的の場合については「違法か合法か判断できない」とした。

自由連合協定と核被害補償
 マーシャル諸島が米国と1983年に締結。これを基に86年、国連信託統治領から独立した。米国に軍事や安全保障の権限を与える一方、経済援助や核実験被害の補償として1億5千万ドルを得た。2003年の協定改定に際し、核実験被害への補償についてマーシャル諸島は追加補償を求めたが、米国は解決済みとして盛り込まれなかった。これとは別に、核被害を認定された環礁の自治体は米国と直接交渉。ロンゲラップ環礁は1996年に再定住などの資金4500万ドルを得ている。

核拡散防止条約(NPT)
 核軍縮を定めた唯一の条約で、約190カ国が加盟。米国、ロシア、英国、フランス、中国に核兵器保有を認める代わりに核軍縮の義務を課す。非保有国には原子力の「平和利用」を認める。1970年に発効、95年に無期限延長した。日本は76年に批准。事実上の核保有国のインド、パキスタン、イスラエルは未加盟。北朝鮮は2003年に脱退宣言した。運用状況を点検する5年に1度の再検討会議が4月27日から米ニューヨークの国連本部で開かれる。

(2015年3月14日朝刊掲載)