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世界のヒバクシャ

3. 補償求め闘い

第3章: 太平洋諸島・オセアニア
第5部: クリスマス島 英核実験被害者たち

国防省、被曝の影響認めず

 私たちは次に被曝退役軍人協会の会員で、1973年に夫を白血病で失ったロザリン・レビーンさん(50)をロンドン市内の自宅に訪ねた。

 「保健省が1988年に、主人の死をクリスマス島の核実験が原因と認めたの。6年前には法廷で退けられたけど、夫を失った戦争妻手当がもらえるようになったのよ」。レビーンさんは、長男でタクシー運転手のポールさん(23)と一緒に、36歳で亡くなった夫レオンさんの遺影を見つめながら、静かな口調で言った。

 政府の放射線防護委員会は、被曝退役軍人協会の訴えに基づいて、核実験で被曝した兵士と太平洋上の任務に就いた非被曝兵士の死亡原因について、4年がかりで調査した。そして1988年1月、「白血病と多発性骨髄腫については、実験による被曝との因果関係を否定できない」との判断を示した。

 「保健省はそれで手当の支給に踏み切ったのよ。でも、国防省はいまだに放射線被曝の影響を認めていないわ」とレビーンさんは言った。

 彼女が受け取る年金は、週56ポンド(1万3千円)と決して十分ではない。しかも、保健省が認定して手当を支給しているのは、彼女を含めてわずか2人にすぎない。協会にとってはささやかな勝利だが、「突破口は開かれた」との思いは強い。

認定がんの拡大求める

 とはいえ、レビーンさんら協会関係者が、放射線防護委員会の調査結果を信用しているわけではない。委員会が公表した被曝者は2万2,347人だが、このうち約5千人は、核実験に立ち会ったこともなければ、汚染除去作業に従事したこともなく、調査のずさんさが明らかになったからだ。そのうえ、1971年までにがんで死亡した兵士の記録は、何1つ残っていないのである。被曝兵士の数については既に放射線防護委員会も誤りを認めているという。

 レビーンさんらへの手当支給を実現したことで、協会は次のステップとして、胃がんや皮膚がんなど他のがんについても認定が受けられるよう、運動を展開している。というのも、米国の被曝兵士の場合は、13種類のがんについて、すでに認定されているからだ。

 「一番の問題は、今、生きている人が苦しんでいるということなの。被曝兵士だけでなく、彼らの子供たちも放射線被曝の影響を受けているのよ」。レビーンさんはそう言って、被曝者の親子の名前を挙げた。