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世界のヒバクシャ

4.「原発不安」集団移転を要求

第4章: インド・マレーシア・韓国
第3部: 放射能不安―韓国「核」発電所

安全対策求めデモ

 デジタル機器が、ぽつんと里の入り口に建っていた。「0.008ミリレム」と、放射線量を示す数字が赤くボードに浮かぶ。1989年4月、古里原発周辺に急きょ設けられた環境放射線監視器である。孝岩里の移住対策委員会副委員長、南基東さん(ナム・キンド)さん(42)は、ボードを見上げて言った。

 「本当の値なのかどうか、怪しいもんだ。こっそり廃棄物を埋めておいて、放射能汚染はないと言っても、だれが信用するものか」。南さんの言葉が示すように、孝岩里178世帯の集団移住を求める住民と韓国電力公社との感情的な溝は深い。

 1988年末から89年4月にかけ、里内の工業用取水場跡地や山あいの土中から黄色いドラム缶、防護服、手袋などが次々と見つかった。原発で働いていた住民が委員会に「放射性廃棄物かもしれない」と暴露し、住民総出で掘り出した。韓電は「放射性廃棄物ではない」と主張し、一部はその通り確認されたが、科学技術処でなお調査中だ。

 「核発電所そのものを認めないのではない。安全対策のない、ずさんな原発のそばでは暮らせないんだ」

 怒りにかられた住民は、隣の吉川里にも呼びかけ、千余人がドラム缶を耕耘機に載せて原発へデモをかけた。吉川里の移住対策委員長ら5人が威力業務妨害罪などに問われた。南さん自身、一審で有罪を言い渡され、現在は控訴中の身である。

「原発が生活破壊」

 住民の要求は、移住だけにとどまらない。韓電社宅内にある韓一病院に健康診断を求め、6月に約300人が検診を受けた。その結果は「放射線障害は1人もいない」だったが、南さんらは「でたらめの検査」と切り捨てる。本人の身長、体重が間違っていただけならまだしも、受診していない人の検診結果までが戻ってきたという。

 無脳児流産や足首奇形など放射能汚染の影響論争で揺らぐ霊光原発のひざ元、城山里も事情は同じだった。韓電への疑念、反発は、むしろ古里原発周辺以上に強い。

 城山里移住・生計対策委員長、金相逸(キム・サンイル)さん(48)は「原発で働いた後、異常な子供が生まれたのは事実だ。何事も原因があって結果がある。『補償金目当て』と決めつける韓電こそ一方的で許せない」と声を張り上げた。