×

世界のヒバクシャ

6. 情報ゼロ 放射線対策手探り

第6章: ブラジル • ナミビア
第2部: ナミビア 砂漠のウラン採掘

白人だけが人間か

 ナミビア滞在中の1月下旬、ロッシング鉱山の社宅の町アランディスで、労働組合の集会があると聞いてのぞいてみた。集会所ホールに集まった組合員は500人で、議題は黒人解放組織、南西アフリカ人民機構(SWAPO)の活動に参加した幹部の復職問題だった。

 3時間余りの論議の末、ストライキを含む闘争で、会社に復職を要求することを確認し、「アルータ(闘争を)!」のシュプレヒコールで集会を締めくくった。

 南アフリカ政府の過酷な弾圧とたび重なる会社の干渉に耐えながら、組合が発足したのは1986年のことだった。その時、わすが20人だった組合員は今、白人20人を含めて1,500人に膨れ上がった。全労働者の70パーセント近くが参加し、SWAPOを支える有力組織の1つになった。この4年、逮捕、投獄にもくじけることなく、組合は南ア政府や会社に闘いを挑み続けた。闘いの方向は、政府に対してであれ、会社相手であれ、一点に絞られていた。グリューネバルト委員長の言葉を借りれば「白人だけが人間だという考えを改めさせる闘い」である。

 労働条件や生活条件の改善などの要求すべてが人種差別撤廃につながり、ひいてはSWAPOが掲げてきたナミビア独立に向けられた。しかし、1989年11月の制憲議会選挙でSWAPOが第一党になり、90年3月21日の独立を目前に控えて、グリューネバルト委員長ら組合幹部は足元の問題に目を転じ、模索を始めている。

学ぶ資料さえなく

 なかでも彼らが緊急に対応を迫られているのが、労働者の健康問題である。呼吸器系疾患の多発に象徴されるダスト対策はもはや放置できない。そしてもう1つ、ウラン採掘から精錬までの工程で懸念されるのが、放射線被曝という厄介な問題である。

 一般の労働者はもちろん、組合幹部でさえ放射線障害に関する知識は極端に乏しい。会社が放射線の基礎教育をしたことはないし、自ら学ぼうにも首都ウィントフークの書店ですら放射線に関する本は手に入らない。

 私たちは取材で労働者と会うたびに広島・長崎の被害、核実験場や核兵器工場周辺の問題、原発事故の影響について質問を受けた。話を聞き終えた労働者は決まって「おれたちは大丈夫だろうか」「外国のウラン鉱山の放射線対策を教えてくれ」と問いかけてきた。

 操業14年、ナミビア最大の産業であるロッシング鉱山の放射線情報は、南アの差別政策のもと、限りなくゼロに近い。そんないびつな姿も、独立を機に大きく変わるのは間違いない。

 独立後、労働者が放射線に関する情報を手にする時、彼らの放射線への危惧はより深刻になるだろう。さらに、ソ連チェルノブイリ原発事故以来、世界の原発建設がスローダウンし、ウラン需要が低迷を続けている現実を知ることにもなる。

 資源輸出が全輸出の80パーセントを占めるナミビアにとって、ウランは独立後の経済を支える、ほとんど唯一の戦略資源である。ウランの需給がナミビアの景気や財政を左右しかねない。鉱山労働者にとっても、新政府にとっても、南ア政府と英国系多国籍企業の情報独占による「ツケ回し」の後遺症は限りなく大きい。