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ジュニアライター発信

ジュニアライター この一年

 現職の米国大統領として初めて、オバマ氏が5月に被爆地広島を訪問した2016年。平和をテーマに取材、活動している中国新聞ジュニアライターは、どう感じたのでしょうか。毎月第3木曜朝刊の1ページ特集「ピース・シーズ」や、毎週の「平和」のページに掲載中の被爆証言を聞く「記憶を受け継ぐ」などの取材を含め、この1年間を振り返ってもらいました。併せて、来年に向けての抱負も聞きました。

オバマ大統領 広島訪問

被爆地の思い 世界に

 「核兵器廃絶への一歩」「被爆者や平和を願う人の思いが伝わった結果」との評価が目立ちました。一方で、「任期が終わる直前の短時間の訪問で本当に意味があったのか」「原爆で失われた命は戻ってこないのに」と疑問視する声もありました。

 特に多かったのは、訪問でヒロシマを米国はじめ世界に知ってもらえた、という見方です。高校3年山下未来さんは「米CNNテレビでは、広島訪問に合わせて被爆当時の生々しい写真も放映していた。原爆投下を正当化している米国人も何か感じるものがあったのでは」と期待。中学3年溝上藍さんは「より多くの外国人が広島に行ってみようという気持ちになったと思う」と考えます。

 オバマ氏が寄贈した折り鶴は原爆資料館(広島市中区)に展示されています。「折り鶴の前に大勢の人が集まっている。『これで平和が訪れる』と見ていると思う。広島の惨劇が世界に伝わる」と中学2年斉藤幸歩さんは願います。

 オバマ氏の訪問についてジュニアライターが8月6日に平和記念公園(中区)で実施した国内外の若者アンケートにも着目。「『ありがとう』『これからに期待』など前向きな言葉が多かった」(中学2年佐藤茜さん)「9割が好意的に受け止めていた。事の大きさを実感した」(高校1年上岡弘実さん)と捉えます。

 ただ、平和記念公園滞在はわずか52分間。「もう一度訪れ、もっと詳しく見ていってほしい」(中学2年目黒美貴さん)、「大統領退任後も核兵器廃絶を訴え続けて」(高校3年鼻岡舞子さん)、「他国の首脳の訪問につながってほしい」(同谷口信乃さん)といった声も聞かれました。

被爆証言取材「記憶を受け継ぐ」

71年前の苦しみ感じた

 被爆証言を聞く「記憶を受け継ぐ」の取材が心に残ったと答えた人が多くいました。18歳で被爆した女性に話を聞いた高校1年沖野加奈さんは「被爆場所は私の家の近く。71年前、この道を歩いた人の苦しみを忘れずに生活したい」と言います。在日韓国人2世の男性を取材した高校3年新本悠花さんは「被爆に加え、在日韓国人ということで受けた差別やいじめは想像以上。伝えていきたい」と決意。今も続く被爆者差別を聞いた中学1年植田耕太さんは「解決すべき課題は山積み」と指摘します。

 毎月第3木曜朝刊の「ピース・シーズ」では、9月に「子ども食堂」を取り上げました。同世代である子どもの貧困を考えようとしたのがきっかけ。「貧困家庭は見えにくいけど、困っている人がいると知り驚いた」と中学3年鬼頭里歩さん。高校1年上長者春一さんは「『平和』イコール『戦争がない』だけではない。身近な平和への道筋を見つけられた」と視野の広がりを実感します。

 6月のテーマ「21世紀の原爆漫画」では、被爆も戦争も体験していない40、50代の漫画家を取材しました。「体験はしていないけど、自分なりの方法で平和への主張を伝える姿に心を打たれた」と中学2年佐藤茜さん。やはり体験していないジュニアライターが、いかにヒロシマを伝えるか考える一助になりました。高校1年岡田実優さんは「漫画の主人公を身近に感じることで、原爆投下の歴史の延長線上に自分がいると思える」と言います。

 3、8月には、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から5年を迎えた福島県の高校生との意見交換を特集しました。「人ごととして見ていた自分が恥ずかしい」と高校2年山田千秋さん。第1原発のある大熊町で、持参した放射線測定器の数値がみるみる上がるのを見た高校2年溝上希さんは「現地に行って話を聞き、本やテレビとは比較にならないほど衝撃を受けた」。高校1年中川碧さんは「記憶の風化と放射線の風評被害。どう解決するかが重要」と訴えます。

来年に向けて

薄れる記憶 伝えていく

 被爆72年となる2017年。高校3年岡田春海さんは被爆建物を保存する必要性とともに「記憶が薄れていることから目をそらさず危機感を覚えなくては」と強調します。中学3年岡田日菜子さんは「できるだけ多くの人の被爆体験を伝えていきたい」と望みます。

 戦争中の日本の加害についての取材にも意欲を見せます。「毒ガスを製造していた大久野島(竹原市)のように学べる場所は身近にある」と中学2年目黒美貴さん。加害の歴史を紹介している岡まさはる記念長崎平和資料館(長崎市)を今年訪れた高校1年岡田実優さんは「日本の歴史、世界の現状も学ばなければならない」と考えます。

 貧困や紛争など平和を妨げている国際問題への関心も目立ちました。「これまで取材した人に、若い世代が何をしたらいいか、と質問したら、多くの人が視野を広げて国際的に活動してほしいと言っていた」と中学2年斉藤幸歩さん。高校1年松崎成穂さんは「世界で内向きな風潮が広がりつつある今、異なる文化や宗教を持つ人々を理解することが大切」と海外の人たちとの交流の機会を生かすつもりです。高校2年正出七瀬さんは、平和構築に関心を持つ若者は多い、として同世代である高校生との対話を希望しています。

(2016年12月26日朝刊掲載)

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