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ジュニアライター発信

ジュニアライター この一作 「おとなになれなかった弟たちに…」(米倉斉加年著) 怒りと悲しみと後悔

 あなたの家族が飢(う)えて死ぬなんて、想像したことがありますか。ほんの数十年前、戦争中には、たくさんの人が餓死(がし)したそうです。作者米倉斉加年(よねくら・まさかね)さんの弟「ヒロユキ」も、その一人です。

 お母さんは、乏(とぼ)しい食料を子どもたちに食べさせるため、自分はあまり食べず、おチチが出なくなりました。米倉さんも、空腹のあまり何度かヒロユキのミルクを盗(ぬす)み飲(の)みしてしまいます。かわいい大切なヒロユキはそれしか食べられない。分かっていても、やめられませんでした。泣きながらミルクを飲んでいる痩(や)せ細(ほそ)った少年のイラストのそばに、ポツリと書かれた戦中標語「ほしがりません かつまでは」の一言が重くのし掛(か)かってきました。

 自分が生きるためには、どんなに大事な人でも犠牲(ぎせい)にしてしまう。あってはいけないことなのに、戦争はそんな状況(じょうきょう)を当たり前につくり出し、人としての信頼(しんらい)、絆(きずな)をむしばんでいきます。人が殺し合う戦場ではなく、日常生活の場でも、死と隣り合わせで、必死で生きてきた生の人間の怒りと悲しみ、後悔が作品からあふれ出しているのを感じました。(中1・藤井志穂)

(2014年7月8日朝刊掲載)

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