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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 外国人向けロゴ 一からデザイン 広島をPR

 2020年の東京五輪・パラリンピック開催(かいさい)まで1年を切りました。スポーツと平和の祭典に合わせて、たくさんの外国人観光客が日本を訪れます。広島にも足を延(の)ばしてもらいたい―。そんな思いから、中国新聞ジュニアライターは外国人に広島訪問(ほうもん)を呼(よ)び掛(か)けるロゴマークをデザインしました。より多くの人が、被爆から復興した街を散策(さんさく)したり、平和のため自分に何ができるのか考えたりするきっかけになってほしいです。

紙面イメージはこちら

ワークショップ

70のキーワード 図に

 ロゴマークを作るため、広島市中区の広告代理店「みづま工房」のアートディレクター、中間大介さん(49)に2日間のワークショップを開いてもらいました。

 まず、「広島」と聞いてイメージするもの、外国人に訪れてほしい広島のスポットやおすすめの食べ物をみんなで書き出しました。ともに世界遺産の宮島・厳島神社や原爆ドームが真っ先に挙がり、次に路面電車や広島菜、神楽など約70個のキーワードが出ました。

 続いて、キーワードを基にマークのデザインを考えました。中間さんが「できるだけシンプルな形で」とアドバイス。私たちが伝えたいことを図にして表すのはとても難(むずか)しい作業でしたが、角度や大きさを変えるなどして最終的に約20個の案が出来上がりました。色が持つイメージを生かすことを心掛けました。

 広島訪問を呼び掛ける英語の文言「カム・ビジット(おいでよ)」を付けて、外国人の目を引くようにしました。中間さんの手を借りながら、三つのロゴマークが完成しました。これからのジュニアライター活動の中で、多くの人に見てもらおうと思います。

3案完成

大鳥居や慰霊碑

 下半分の赤は厳島神社の大鳥居の色です。しゃもじと、もみじまんじゅうを加えました。左上は平和記念公園の原爆慰霊碑(げんばくいれいひ)です。青は瀬戸内海、緑は中国山地をイメージ。大きな折り鶴を置いたのは、病床(びょうしょう)で鶴を折り続けた故佐々木禎子さんについて知ってもらうためです。

折り鶴サークル

 カラフルな八つの折り鶴を、円を描(えが)くように並べました。花が元気よく咲いているようにも見せています。それぞれの色は、広島の特産物などを表現しています。黄はレモン、茶はお好み焼き―などです。広島の見どころをたくさん知ってもらいたいです。

一筆描きのハト

 世界でも「平和の象徴(しょうちょう)」として広く知られているハトがモチーフです。国と国、人と人の「つながり」を表現するために、一筆描きでハトを描きました。線の色は、温かみのある赤。未来に羽ばたこうとする動きが想像できるよう、形も工夫しました。

こつを聞く

▶アートディレクター 納島さん 「抽象的なデザインに」

 広島市東区の「地域デザイン研究所」代表でアートディレクターの納島正弘さん(59)に、広島や平和をテーマにしたデザインを考えるこつを聞きました。

 納島さんはこれまで、2020年までの核兵器廃絶(はいぜつ)を提案した絵本や、アルファベット文字を折り鶴で形作ったポスターなどを手掛けてきました。13年には、漫画(まんが)「はだしのゲン」をモチーフにしたポスターをイラストレーターの黒田征太郎さんと作りました。

 主人公ゲンのイラストに、原爆のきのこ雲と、きのこ雲を逆さに見立てたフラスコに1輪の花を挿した手描きの絵を組み合わせています。作者の故中沢啓治さんの追悼展(ついとうてん)で披露(ひろう)し、広島の象徴的なキャラクターと、斬新(ざんしん)な絵を融合(ゆうごう)させた作品は強いインパクトを与えました。

 納島さんは、平和をテーマにしたポスターを制作する際、心掛けていることがあります。原爆の残酷(ざんこく)さをストレートに訴(うった)えるというよりも、抽象的(ちゅうしょうてき)なデザインを取り入れることです。「背景(はいけい)にはどのような意味やメッセージがあるのだろうか、と考えてもらうデザインだと、見る人にとって深く印象に残る」と話していました。

 この取材は、高2川岸言織、佐藤茜、フィリックス・ウォルシュ、高1柚木優里奈、中3岡島由奈、桂一葉、中1俵千尋が担当しました。

(2019年9月16日朝刊掲載)

【取材を終えて】

 私は今回、ロゴマークを作る上で「考えを広げて、単純化していこう」という中間さんの考えを聞き、見た人が楽しめるようなロゴマークを作りたいと思いました。みんなとアイデアを出し合いながら、広島の魅力が詰まったすてきなロゴマークが作れました。今回のワークショップで、デザインの世界はどこまでも広く深いのだと感じました。私たちが考えたロゴマークを通して、多くの人に平和を感じてほしいです。(中1俵千尋)

 今回の取材で、一人一人平和の象徴として思っているものは違うのだと思いました。また、「平和を伝える」表現の仕方にもいろいろな方法があることがわかりました。このような考えを持っている人もいるのだとか、そういうふうに書いてもいいのだなど、いろいろなことを学べて引き出しが多くなったと思います。(中3桂一葉)

 納島さんが、「ポスターを見た人が、自分の考えを注入し、それぞれの思想を作ってほしい」と話していたのが心に残っています。私もジュニアライターを通して、自分自身だけではなく、読んだ人も平和について考えるきっかけになるような文章を書きたいと思いました。海外の人たちとも言葉や価値観の違いを越えて、平和について考え合えることができるアートは、平和を分かりやすく、身近に訴えられる方法だと感じました。(中3岡島由奈)

 みんなで話し合ったり、プロの方に指導していただいたりしながら、楽しくロゴマークを作ることができました。ロゴマーク作りを通して広島の魅力に気づくことができました。また、平和や広島を伝える表現はいくつもあることが分かりました。ロゴマークを見て、年齢や国籍問わず多くの方に広島を知ってほしいです。これからも芸術を使って平和を発信するということに挑戦して行きたいです。(高1柚木優里奈)

 私は今回の企画でとても楽しかったのは、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けてのロゴをみんなで考える会議をした事です。私は最初、「平和」と言われて思い浮かんだのは、折り鶴や原爆ドーム、ハトなど、みんなが思いつくようなものしか出てきませんでした。しかし、みんなでアイデアを出し合うと、自分の考えていなかったことなどが出てきてとても勉強になりました。納島さんの取材では、絵という抽象的なものを見ただけでメッセージを伝えることが、こんなにも難しいのだと思いました。(高2川岸言織)

 2020年の東京五輪・パラリンピックを見に来る外国人観光客を広島に招くロゴマークを作るワークショップで、中間さんに指導してもらいながら、さまざまなデザインが生まれました。デザインを考えている時、中間さんから「これはこうしたほうが良い」などの助言を受けて、自分たちがイメージしているデザインを紙に書き出すことができました。他のジュニアライターとアイデアを交換する中で、多くのアイデアを組み合わせることが難しかったですが、同時に面白くもありました。そして、納島さんから、アートディレクターの仕事や、作品を制作するにあたって心掛けていることなどを聞きました。デザイナーの仕事に興味があったので、業界の少し詳しいところまで知ることができ、さらに「デザイナーはメンタルが弱いと仕事をやっていけない」という言葉が心に刺さりました。今回の企画全体を通して、デザインの影響力を実感できました。また、自分たちで実際にロゴマークを作り、メッセージ性のある分かりやすいものを作ることの難しさが分かりました。(高2フィリックス・ウォルシュ)

 中間さんとのワークショップの時、まず初めに行ったのは、みんなでの話し合いです。さっそく制作にとりかかるのだろうと構えていた私は、なんだ、まだペンは持たないのか、と拍子抜けしてしまいました。しかし、話し合いの前にみんなで考えていたのは「原爆ドーム」「折り鶴」「紅葉」といった既に有名なモチーフばかりだったのに対し、ブレーンストーミングを行ったことによって「再生紙」「神楽」「広島菜」「つながり」「未知」のように、ロゴマークということにとらわれすぎない伸び伸びとしたアイデアが生まれてきました。今考えればこの話し合いの過程が本当に大切で、ひとりひとりのひらめきを有することで「そういう考え方もあったのか!」とみんなの思考をどんどん柔らかくしてくれたのだなと思います。今回に限らず、これからの活動の中でもぜひぜひ生かしていきたいこつです。(高2佐藤茜)

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