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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「そらいろ男爵」(ジル・ボム文、ティエリー・デデュー絵)

本で戦争終わらせる

 そらいろ男爵(だんしゃく)は読書や鳥の観察が好きな文化的なおじさんです。自作の飛行機で空を飛ぶのを楽しんでいましたが、航空兵として戦争に駆(か)り出されてしまいます。砲弾(ほうだん)代わりに重い本を落とすことにしましたが、ある時、的に当たらなかった小説を敵の隊長が夢中になって読み始め、戦争が中断します。

 この時に初めて「勝利」という言葉が使われているのが印象的でした。男爵にとっての降参は、敵に負けることではなかったのです。戦争を終わらせるため最後に考えた作戦は…。人間は力でなく、知恵(ちえ)で戦えるのだと感動しました。

 ハッピーエンドで結ばれますが、図書館のようだった本棚がほとんどからっぽになってしまいました。この物語の中の本は他の人に読まれ、戦争が終わるきっかけとなりましたが、現実では、爆撃(ばくげき)などで失われてしまうのがほとんどだと思います。

 本は一冊一冊に、作り手の発行するまでの労力や、読み手の思い入れがあるのに、焼けてしまうのは一瞬(いっしゅん)です。人間にしかつくれない文学や文化を、壊(こわ)してしまう戦争は野蛮(やばん)だと思いました。(高1藤井志穂)

(2017年12月12日朝刊掲載)

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