×

ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「ちいちゃんのかげおくり」(あまんきみこ作、上野紀子絵)

戦争が家族を壊した

 幼い少女のちいちゃんは、戦争に行く直前の父親から「かげおくり」という遊びを教えてもらいます。影をしばらく見つめてから空を見上げると、そこに像が写っているという不思議な遊び。父親が戦地に赴(おもむ)いた後も、おにいちゃんと遊びました。

 ちいちゃんの町に空襲(くうしゅう)がありました。家は焼け落ち、逃げる途中ではぐれた母親も、おにいちゃんも戻ってきません。彼女はひとりぼっちになってしまいました。どう生き抜いていけばいいのか。14歳の私でも不安が募ります。泣く場面がないのは、悲しすぎて涙さえ出てこなかったからでしょう。ちいちゃんの寂しさ、怖さは想像を絶します。

 物語は、ちいちゃんが、思い出の詰まったかげおくりをしながら家族のいる空に吸(す)い込(こ)まれていくところで終わります。それは、せめてもの救いだったのかもしれません。でも、命がこうして失われていくのはおかしなことです。家族を壊す戦争はむごいと感じました。読み直すたび、ちいちゃんの悲しみが私の中でじわじわと大きくなっていきます。(中2増田奈乃佳)

(2016年3月14日朝刊掲載)

年別アーカイブ