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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「やくそくのどんぐり」(大門高子・文、松永禎郎・絵) 

国籍関係なく命奪う

 この本は、主人公の被爆した韓国人男性と、被爆者の治療(ちりょう)を続けた広島の医師の物語です。戦争は国と国同士が戦うものですが、国籍(こくせき)に関係なく、人の命を無差別に奪(うば)うものだと、あらためて気付かされました。

 広島生まれの男性は被爆後、韓国に戻りました。しかし原爆症を発症し、治療のため訪れた広島で心温かい医師と出会います。男性は広島からドングリを持ち帰り、地元の畑にまきます。小さな芽に希望をもらいながら、自分史を書く「やくそく」を医師と結びました。最期は、広島から駆(か)け付けた医師と書き上げてから、亡くなりました。

 「命あるものは、いつか必ず命をとじる日がきます。でも、殺されるために生まれてくるのではありません」。作者が最後に書いたこの言葉に、私は強く胸を打たれました。ドングリは男性が広島で楽しく暮らしていた頃(ころ)の象徴(しょうちょう)でもあり、男性の代わりに平和な未来を築く存在のように描かれています。

 韓国で芽吹いた広島のドングリは、韓国の被爆者が暮らす施設(しせつ)に移され、両国の人々の祈りの中で、すくすくと育っています。国に関係なく、全世界の人々が平和を享受(きょうじゅ)できる日が早く来てほしい―。私もそう願っています。(中2佐藤茜)

(2016年12月13日朝刊掲載)

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