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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「大地の子」(山崎豊子著)

孤児の悲劇 胸に迫る

 日本の敗戦後、中国残留孤児(こじ)となった少年、陸一心を主人公にして描いています。作者の山崎豊子さんが、中国での高い取材の壁(かべ)を乗(の)り越(こ)え、現地取材を重ねて書き上げました。「私の生涯で二度と書けない作品」だそうです。

 親切な中国人夫婦に育てられ、立派な大人になった一心。日本人であることを理由に迫害(はくがい)を余儀(よぎ)なくされながらも、生き抜きます。家族を捜(さが)そうと努力していた日本の実父とも再会を果たします。

 印象に残っているのは、仕事で日本へ行った一心が、父の家で仏壇(ぶつだん)に手を合わせるシーンです。かっぽう着姿の母の写真を見て号泣します。母の姿を見ることができてうれしかったと思います。しかし、戦争さえなければ家族が離(はな)れ離れになることはなかったのに、という思いもこみ上げてきました。

 日本に帰って日本人として生きるべきか、中国に残って中国人として生き抜くべきか―。2人の父の間で一心の気持ちが揺(ゆ)れる場面は、とても悲しくなりました。

 人々の人生を劇的に変えてしまう戦争はとても恐(おそ)ろしく、二度と繰(く)り返(かえ)してはいけません。戦争を起こさないために、僕は戦争体験にできるだけ耳を傾(かたむ)け、残酷(ざんこく)で悲惨(ひさん)な戦争を味わった人々の思いを伝えていきたいです。(高3岩田壮)

(2016年8月29日朝刊掲載)

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