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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「海をわたる被爆ピアノ」(矢川光則著) 人の優しさ奪う戦争

 「被爆ピアノ」とは、原爆に遭(あ)って傷つきながら奇跡的(きせきてき)に残った古いピアノのことです。著者でピアノ調律師の矢川光則さんは、被爆ピアノの修理を手掛(てが)け、国内外で演奏会を開いています。

 その中の一台、「ミサコのピアノ」の話が心に残りました。当時17歳だったミサコさんの自宅は、爆心地から約1・8キロの場所にありました。ピアノは爆風(ばくふう)で飛ばされ、壁(かべ)にたたきつけられましたが、無事だったのです。

 原爆投下から11日後、親戚(しんせき)にせがまれたミサコさんがピアノを弾(ひ)いていると、「日本がどうなるか分からない時に、いったい何を考えているのか」と庭に大きな石が投(な)げ込(こ)まれました。ショックを受けたミサコさんはしばらくピアノが弾けなくなりました。戦争が人々の優しさや笑顔を奪(うば)ったのだと思うと悲しくなりました。

 ミサコさんはガラスが刺(さ)さったり音が鳴らなくなったりしてもピアノを大切にしてきました。原爆を一緒(いっしょ)に乗(の)り越(こ)え、歩んできたピアノへの特別な愛情を感じます。

 矢川さんは、被爆ピアノの音を「平和の種」と表現しています。音楽を楽しめる平和な世の中で生きられることがどんなに幸せか。私たち一人一人が考えることで、平和の芽を育て、いつか花を咲(さ)かせたいです。(高1沖野加奈)

(2016年7月12日朝刊掲載)

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