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ジュニアライター発信

Peace Seeds ヒロシマの10代がまく種(第38号) 高校生の海外ボランティア

 海外でボランティア活動に挑戦する高校生が広島県内にいます。途上国などで貧困や経済格差といった現実に向き合いながら、食や教育の面で、子どもたちを手助けしようと励(はげ)んでいます。

 日本で生まれ育った若者は、衣食住をはじめ電気や水道といった、社会生活を支える基盤(きばん)を「当たり前」に感じがちです。しかし、アジアやアフリカの途上国に行くと、「不十分」と思える状況(じょうきょう)にギャップを感じ、驚(おどろ)きます。

 同時に、社会環境(かんきょう)が十分に整備されていない中でも、現地の人たちが幸せに暮らす現実にも感動します。「物の豊かさだけが幸せを図る基準でない」。海外で日本語を使わず試行錯誤(しこうさくご)するうちに、自分を見つめ直し、他者を思いやる視点も芽生えているようです。

 返済が不要な国の奨学(しょうがく)金を使って、現地で活動する方法もあります。若いうちに経験してみませんか。

<ピース・シーズ>
 平和や命の大切さをいろんな視点から捉(とら)え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲かせるため、中学1年から高校3年までの30人が、自らテーマを考え、取材し、執筆しています。

紙面イメージはこちら

世界の現実に驚きと発見

幼稚園で人形劇 in スリランカ 尾道東2年大畠さん

幸せの基準 モノではない

 「途上国の子どもに夢を与(あた)えたかった」。尾道東高(尾道市)2年の大畠奈都子さん(17)はスリランカで7月から1カ月間、チャイルドケアのボランティアに参加しました。

 保育士を目指している大畠さん。幼稚(ようち)園では自作の人形で物語「はらぺこあおむし」を英語で上演しました。青虫からチョウに変身する場面では「たくさん食べて美しいチョウに成長したように、さまざまな経験をして夢を持って羽ばたいて」と思いを込めました。

 今回の経験で、物質的な豊かさイコール精神的な豊かさとは限らないと痛感しました。滞在(たいざい)中に出会った現地の約40人に「幸せ度は何%か」と聞いたところ、平均97%と予想外に高い結果だったのです。「シャワーは水。止まることもあって驚いた。でも現地の人はみんな笑顔で暮らしていた」

 日本人の目線で「してあげる」のではく、彼らに何が必要か調べサポートする大切さを知りました。「英語をもっと勉強して再び訪れたい」。飛躍(ひやく)を誓(ちか)います。(高1沖野加奈)

貧困層に食事提供 in フィリピン 尾道東2年井上さん

劣悪な環境 想像以上

 美しく青い海が広がるフィリピンのリゾート地、セブ島。ここから車で30分ほど走るとスラム街が広がります。尾道東高(尾道市)2年の井上理園さん(17)はその格差に強い関心を持ち7月下旬(げじゅん)から3週間、現地で子どもたちに食事を提供するNGOの活動に加わりました。

 向かったのは墓地にあるスラムや、町の開発のため山村に追われた人たちの集落…。廃材(はいざい)やトタンで造った粗末(そまつ)な家が並んでいます。多くの人は仕事がなくその日暮らし。母になって路上生活する14歳の少女や薬物中毒で目がうつろな人にも会いました。

 60~70人分の食事作りのほか、子どもたちに英語や折り紙も教えました。「想像以上に貧しく、衛生面も悪かった」。一方、住民が支援(しえん)に慣れていると思うことも。一緒(いっしょ)に作った折り紙が捨てられていたのです。

 保健師を目指す井上さん。「途上国の衛生状態を良くし、貧困層の女性の社会進出を支援したい」と力を込めます。(中2目黒美貴)

小学校サポート in ガーナ 広島女学院2年青山さん

言葉の壁に悔しさ

 「英語を学び、自分の考えをしっかり伝える努力が大切」。7月10日から1カ月間、ガーナでボランティアをした広島女学院高(広島市中区)2年の青山姫梨(きり)さん(17)は振り返ります。

 首都アクラから北へ約50キロの町で活動しました。小学校に行くと、机はガタガタ、図書室も本棚(だな)が壁(かべ)の1面にしかなく、教育環境が整っていない現状を目にしました。校舎の壁を塗ったり、机や本棚を作ったりしてサポートしました。

 児童に、安全な飲み水やけがへの対処法について、公用語の英語で教える時間がありました。しかし自分の英語力では詳(くわ)しく伝えられず、悔(くや)しさが残りました。意見をはっきり主張する欧米(おうべい)のボランティア仲間とも、十分に話し合いできないままに終わりました。

 言葉の壁を感じた一方、自分の顔を覚え毎日駆(か)け寄る児童の姿がやる気に結びつきました。「どの子も人なつっこく、楽しそうに勉強していた」。今回の経験をばねに、将来は英語を使って途上国の開発問題に携(たずさ)わりたいと考えています。(高2山田千秋)

折り鶴紹介 in ベルギー 舟入3年岡本さん

禎子さんの祈り発信

 舟入高(広島市中区)3年の岡本歩実さん(19)=写真=は昨年8月から今年7月までベルギーに留学。2月の5日間、日本文化を現地で広める非政府組織(NGO)に自ら提案し、子どもたちに折り鶴を教えました。

 「世界に広島の歴史を伝えたい」と出発前から考えていました。原爆による白血病のため12歳で亡くなった佐々木禎子さんを紹介した上で一緒に作ります。真剣(しんけん)に聴(き)く子どものまなざしをうれしく思いました。

 国籍(こくせき)に関係なく分かり合える世界を目指し、相手の考えを尊重しながら自分の意見を伝えていこうと考えています。(高1沖野加奈)

児童と交流 in インドネシア 舟入3年岡田さん

読み聞かせで笑顔に

 2014年8月から1年間、インドネシアに留学した舟入高(広島市中区)3年の岡田莉子さん(19)=写真=は、首都ジャカルタの児童養護施設(しせつ)で一日ボランティアを体験しました。

 絵を描(か)き、絵本の読み聞かせをして交流。病気で会話が困難な子も多く、最初はコミュニケーションの取り方に戸惑(とまど)いました。そのうち笑顔になる子どもを見て不安は和らぎました。

 治安への不安も感じました。帰りに車へ戻(もど)ると窓ガラスが割られ、中の荷物が盗(ぬす)まれていました。それでも「大学で再び訪れ文化を深く学びたい」と望んでいます。(高3鼻岡舞子)

活動の魅力と心得

学びの場/国境超えた友情も

恐れず話す勇気を

 海外ボランティアの良さと、活動中に心掛(が)けることは何でしょう。5人の話を基に考えました。

 行った国の現状や価値観を知る「学びの場」になります。国境を超(こ)えて友情の輪を広げられ、将来の仕事を決めるきっかけにもなるでしょう。

 英語など言語力が不十分でも、恐(おそ)れずに話す勇気を持つことが大切です。現地では「自分の身は自分で守る」気持ちを忘れず、帰国後は報告会を開いて体験を共有しましょう。(高1岡田輝海、中3川岸言統)

(2016年11月17日朝刊掲載)

【編集後記】

 すべての取材、座談会に参加しました。話を聴いたどの人も目的を持って自ら行動を起こし、行っただけで満足せず、未来を見据えている人ばかりで驚きました。自分で海外ボランティアをやろうと考え、現地で自分も相手も「良かった。楽しかった」と思える活動にチャレンジしている姿はとてもかっこよく、憧れました。私も1番やりたいことは絶対諦めず、チャレンジし続けたいです。そして、今回が私にとっては最後のピース・シーズの取材でした。今までたくさんの取材に関わることができて、本当に良かったです。(鼻岡)

 自分と同世代の若い人たちが、積極的に海外に出向いてボランティアする姿勢にとても驚き、同時に自分の未熟さを痛感しました。取材した青山さんから聞いた言葉が、とても心に残っています。「自分の意見をしっかりと持ち、自分の言葉で主張する」。私もこれから自分で取り組み、励んでいく高校生になりたいと思いました。(山田)

 僕は、初めてボランティアのための留学があることを知りました。語学留学は僕もしたことがあります。しかし、発展途上国でボランティアをしている人が高校生でいるなんて驚きでした。「かっこいいな」とも思いました。どの国に行くのか自分で決めて一人で行き、生活水準が低い場所でも何週間も生活しながら支援することは、なかなか僕にはできないなと思いました。(岡田)

 今回取材した人は全員高校生でした。言語も文化も価値観も違う中でのボランティアは難しかったはずです。その中で「現地の人が喜んでくれてうれしかった」と笑顔で話す高校生は、同世代とは思えないほど大人で、かっこよく見えました。私も恐れずさまざまな事に挑戦しようと思います。良い刺激を受けました。(沖野)

 5人の話を基に、ジュニアライターで留学の良さと活動中に心掛けることについて話し合う座談会に参加しました。一番驚いたのは、「貧しい=不幸」という価値観がすべてではないということです。自分の持っている固定概念が現実と違い、捨てることがあると知りました。機会があったら海外ボランティアに参加したいです。(川岸)

 今回のピース・シーズでは、テーマを決める会議には参加しましたが、残念ながら取材することはできませんでした。私自身、海外ボランティアや留学をしたい願望があるので、経験した人がとてもうらやましく感じられるのと同時に、私と同じ思いをしている人は他にもいると思いました。興味を持っている多くの人にとって、この記事が夢への実現の一歩になってほしいです。(中3プリマス杏奈)

 私は今まで、途上国の人というと日本のテレビで見るような無表情の人々を想像していました。ところが、井上さんから、貧しい人々も笑顔で幸せそうに暮らしていたと聞き、驚きました。途上国は貧しいから人々も幸せではない、と先入観を持っていたことに気づかされたからです。それを解消するためにも、井上さんが勧めるように海外へ行き、自分の目で現実を確かめてみたいです。留学への興味がわいてきました。(目黒)

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