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ジュニアライター発信

Peace Seeds ヒロシマの10代がまく種(第36号) 知ってますか「子ども食堂」

 「子ども食堂」を知っていますか。主に小・中学生とその家族に、無料か数百円で、温かい料理と居場所を提供する場所です。最近、中国地方でも広がり始めています。誰が行っても、笑顔と一緒に「お帰り」と迎(むか)えてくれる場所を目指しています。

 子ども食堂誕生の背景には、子どもの貧困問題がありました。楽しそうに笑っている子どもでも、もしかすると大きな悩(なや)みを抱(かか)えているかもしれません。だからこそ、周囲の人が気付いてサポートすることが大切です。身近な問題として受け止める必要があります。

 原爆や戦争で生活に苦しむ子どもが多くいました。そんな体験を再びさせるようなことがあってはいけません。皆さんも子ども食堂に行って、一緒にご飯を食べたり、自分にできることを探したりしてみませんか。

<ピース・シーズ>
 平和や命の大切さをいろんな視点から捉(とら)え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲かせるため、中学1年から高校3年までの39人が、自らテーマを考え、取材し、執筆しています。

紙面イメージはこちら

料理囲み交流 心身サポート

会話弾んで居心地良く 広島YWCA(広島市東区)

 「おいしい?」「習い事してるの?」。和やかな雰囲気(ふんいき)の中、夏野菜カレーを一緒に食べながら、大人が子どもに尋(たず)ねています。広島YWCA(広島市東区)が東区若草町の広島主城教会で7月から始めた子ども食堂。「カレーパーティー」として、毎月第4火曜の午後5時半から7時半まで開いています。

 この日のカレーには、地元の精肉店で安く分けてもらった豚(ぶた)肉や、寄付されたカボチャを使っています。食材について紹介(しょうかい)した後、YWCAの会員や近所の子ども10人と、大人27人が食事を共にしました。早く食べ終えた人から片付け、子どもは射的やこま作りをして遊びます。

 今後は学習支援(しえん)も考えています。代表理事の中木風子さん(35)は「保護者と子ども、どちらにも信頼(しんらい)してもらえる人間関係をつくりたい。居心地の良い場所にしてもっと広めていきたい」と意気込みます。

 誰でも利用できます。参加費は18歳以下100円、19歳以上300円。初めて訪れた井口台小6年の田辺紗彩さん(12)=西区=は「知らない人とご飯を食べたり、おしゃべりしたりできて、交流を深められる。また来たい」と喜んでいました。(高1上岡弘実)

 広島YWCA Tel082(258)4878(水・木・金曜の午前10時~午後4時)

行動自由 親も息抜き NPO法人「とりで」(岩国市)

 岩国市のNPO法人「とりで」は月2回、学校の給食がない土曜の午前11時から午後2時まで、同市平田3丁目の平田供用会館で子ども食堂を開いています。この日のメニューは鳥の唐(から)揚(あ)げ、サラダ、玄米(げんまい)おにぎりに野菜スープ。約20人の大人と子どもが一緒に作り、机を囲んで食べます。

 子どもたちは何度もおかわりし、山のようにあった唐揚げはすぐになくなりました。食事の後、子どもは部屋でゲームをしたり近くの公園で遊んだりして自由に過ごします。理事長の金本秀韓さん(33)は「子どもが主体性を持てる場にしたい。親も来てもいい。息抜きになれば」と願います。

 かつて児童養護施設(しせつ)で働いていた頃、家庭の抱(かか)える問題を早めに解決できないか考えていました。ことし6月、食堂を開始。生活に困っている人にはさらにサポートします。今後は食堂を運営する専門スタッフを雇(やと)い、回数や場所を増やしたいそうです。

 中学生以下は無料、高校生以上は500円が必要です。小学1年の長女(6)と参加したひとり親女性(44)は「娘(むすめ)はいろいろな大人に見てもらって思いっきり遊べる。家で一緒に料理を作る機会も増えた。ひとり親は孤立(こりつ)しがちなので、助けを得られる場があるのはありがたい」と話していました。(高1上長者春一)

 とりでTel0827(35)6509

≪広島市内の他の子ども食堂≫

※市の「ひとり親家庭等居場所づくり事業」で補助を受けている2団体

西中国キリスト教社会事業団
 西区小河内町1の13の3
 Tel082(232)4274

開催日、参加費
 ・第2・4金曜の午後7~9時
 ・中学生以下は無料、高校生300円、保護者200円

≪担当の須磨勇記さん(37)から一言≫
 家では時間がなくて作れない手の込んだ料理や、子どもが好きな料理を、手作りしています。温かいご飯を用意して待っているので、気軽に連絡してください。(中2伊藤淳仁)

若者活動サポートセンターあおぞら
 安佐北区可部4の10の8の201
 Tel082(562)2451

開催日、参加費
 ・毎週木曜に開く無料塾「もちのき」の時間を利用して月2回、午後6~7時
 ・無料塾に参加する小学3~6年生が対象で1人100円

≪共同代表の増谷郁子さん(60)から一言≫
 豪華ではありませんが、手作りの温かい料理を、みんなで一緒に食べて話しましょう。お金に困ってなくても、1人でご飯を食べる人もどうぞ来てください。(高1上岡弘実)

広島市社会福祉協議会福祉課長 鈴川千賀子さんに聞く

「ななめの関係」 孤立防ぐ
 子ども食堂の役割や課題は何でしょうか。広島市社会福祉協議会(中区)福祉課長の鈴川千賀子さん(59)に聞きました。

  ―なぜ必要なのですか。
 約10年前から、派遣(はけん)社員やパートなど不安定な雇用(こよう)形態で働く人が多くなりました。収入が減り生活が苦しい家庭が増えています。

 さらに、ひとり親家庭も多くなり、親が忙(いそが)しくて食事が作れない、または子どもだけで食べる傾向(けいこう)が高まっています。家族でコミュニケーションを取る時間が少なくなっているのです。

 経済的な貧困と心の貧困。今はモノがあふれ、見かけでは気付かれにくく、社会から孤立する場合があります。万引など非行に走る子もいます。

 食べることを通じて、子どもとふれあえる場をつくろうと地域の大人が始めています。子どもと遊んだり勉強を教えたりして信頼関係を築き、一人一人の生活を支援する狙(ねら)いもあります。

  ―運営側の注意点は何でしょう。
 衛生面には細心の注意が要ります。1カ所でも食中毒を起こすと、全国で運営できなくなる可能性があります。また、定期的な開催(かいさい)も大切です。大人の都合で開く日を変えるのは好ましくありません。

  ―理想の姿は。
 誰でも気軽に立ち寄れる場所になることです。「食堂に行くから貧困家庭の子」という偏見(へんけん)が持たれなくなるからです。教員でも親でもない第三者の大人だからこそ、子どもは悩(なや)みを打ち明けます。「ななめの関係」をつくりアットホームにするのが理想です。(中3鬼頭里歩)

(2016年9月15日朝刊掲載)

編集後記

 広島市社会福祉協議会の鈴川さんにインタビューした時、「子ども食堂に同級生が来たらどうする?」と質問されました。私は驚いて、すぐには答えられませんでした。でも、取材を終え、子ども食堂はすべての人が集える、地域の居場所だと分かりました。そこで、「誰が来ても普通に受け入れられるような食堂になったらいいです」と答えました。地域に根差すには時間が必要ですが、社会的な孤立を感じる人が、少しでも減るといいな、と思います。(上岡)

 僕自身、今回の取材は特別な体験になりした。取材内容を決めるテーマ会議に参加するまで、子どもの貧困についても、子ども食堂についても何も知りませんでした。

 取材では、岩国市のNPO法人「とりで」の子ども食堂に行きました。小学校の中学年までの子たちが、みんなで仲良く遊んでご飯を一緒に食べ、食べ終わったら外に出て、また思いっきり遊ぶ光景を見ることができました。無邪気な子どもたちに、僕は終始気後れしていましたが、どの子どもたちもとても楽しんでいるように感じました。

 また、機会があれば子ども食堂に、もう一度参加させてもらいたいです。子どもたちとも一緒になって遊べればいいなと思います。

 今回の取材を通して「百聞は一見にしかず」ということわざを痛感しました。今まで知らなかった社会福祉の現場を、わずかですが知ることができました。これからは、自分が実際に見て聞いたことを大切にしていきたいです。(上長者)

 「こども食堂」は思っていた以上にアットホームな場所でした。スタッフの皆さんが、参加する子どものことを一番に考え、いろいろな取り組みをされていることを知り、驚きました。だからこそ、子どもにとって、かけがえのない場所になるのだと思いました。(鬼頭)

 広島YWCAの子ども食堂へ取材に行った時の話です。小学生たちに感想を聞こうとしたのですが、うまく質問できなくて返事を引き出せず、困りました。いつもは大人に取材する機会が多く、子どもへの取材は慣れていなかったからです。年齢が違ったら質問の仕方も変わるんだなと気付きました。(伊藤)

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