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ジュニアライター発信

Peace Seeds~10代がまく種~ <12> 子どもの人権 尊重し合える社会に

 子どもも一人の人間なのに、学校や家庭などのいろいろな場面で、大人から人として誠実に対応されないことがあります。子どもの人権は傷つき、将来にわたって影響が出る可能性もあります。ことしは、国連総会で「子どもの権利条約」が決められて25年、日本が同意してから20年の節目の年です。人が尊重し合える社会をつくるためにも、子どもの人権について、子どもも大人も一緒(いっしょ)に考えてみませんか。

食卓囲み 心通わせる

今後の生き方も語り合う

虐待体験の中3と元保護司中本さん

 子どもが親から虐待を受けることは、子どもの「守られる権利」の侵害になります。広島市の中学3年男子生徒(15)は小学生のころ、母親から日常的に暴力を振(ふ)るわれていたといいます。家での居場所を失った彼は、盗(ぬす)んだお金でご飯を食べていたこともあるそうです。今は周囲の大人のサポートを得て、立ち直ろうと努めています。

 彼は中区のアパートの一室に週3、4回、夕方に通います。夕食を取るためです。この部屋に住む元保護司の中本忠子(ちかこ)さん(80)は約30年、家庭や学校に居場所をなくした子どもに食事を作ってきました。彼は、中本さんが作ったカレーライスや丼(どんぶり)物といった温かい料理を黙々(もくもく)と口に運び、おなかをいっぱいにします。

 小学1年から6年まで「ずっと母親に殴(なぐ)られっぱなしだった」と振り返(かえ)ります。金属バットで殴られ、頭から血を流したこともあるといいます。暴力の理由は分かりません。

 それでも低学年の時は、「家族で海に泳ぎに行って楽しかった。親も好きだった」。高学年になると「親が嫌(きら)いになって、家で飯を食べたくなくなった」と話します。所持金がなく、ゲームセンターで他人が置いていた財布を友人と盗み、そのお金でハンバーガーや牛丼(ぎゅうどん)を食べたこともあるそうです。

 彼は今、犯罪はしません。中本さんたちに料理を作ってもらい、話を聞いてもらえるからです。1人暮らしができるよう、中学卒業後は働き、貯金をするつもりです。「(好きな)野球を弟に教えてあげたい」という優しい心も持っています。

 中本さんは「子どもはご飯が食べられないと非行に走る」と力を込(こ)め、大人の役割の大切さも指摘します。彼を見つめ、「私にも想像できない世界を体験してきたと思う。自分の生き方を自分で決め、ここからしっかり変わってほしい」と背中を押(お)しています。(高1谷口信乃、福嶋華奈)

関心深め 譲り合いを

定者弁護士に聞く

 子どもの人権とはどんなものでしょうか。子どもの権利条約の内容を広く知ってもらう活動をしている広島弁護士(べんごし)会の定者吉人(じょうしゃ・よしと)弁護士に聞きました。

 定者弁護士は、子どもの人権を「人としての尊厳が大切にされ、そのための手助けが受けられる権利」と説明します。子どもは年齢(ねんれい)や体格を理由に、大人から見て「弱い立場」に一方的に置かれがちです。その結果、子どもの尊厳が傷つけられる可能性があるため、子どもの権利条約を定め、不利にならないようにしているのです。

 日本でも、家庭環境(かんきょう)やいじめなどのため、子どもの人権が守られていないケースがあります。定者弁護士は「日本は条約に同意したけれど、大人が条約についてよく知っていないのが実情。条約を読む大人が増え、子どもの人権にもっと関心を深めてほしい」と訴えます。子どもに対しても、「自分が尊重されるためには、相手を尊重することも大切。お互(たが)いがどこかで譲(ゆず)り合う努力も必要」と指摘しています。(中2岡田輝海)

 取材を通じて学んだ「子どもの人権」について、私たちジュニアライターなりに分かりやすく表現してみました。そして、こうした権利を守るため、大人や子どもに取り組んでほしいことを三つの提案にまとめました。

私たちの人権 言葉にすると…

 ・大人も子どもも、みんながみんな笑うために必要なもの(高2河野新大)

 ・自分自身の考えが、ちゃんと大人に受け止めてもらえること(高1谷口信乃)

 ・子ども一人一人が、元気にたくましく成長できること(高1福嶋華奈)

 ・周囲に守ってもらって、のびのびと育っていいこと(高1山田杏佳)

 ・大人からきちんと言葉で説明してもらえること(中2上岡弘実)

 ・みんなが尊敬し合って、元気に育つこと(中2岡田輝海)

それを守るためには

①「居場所」があれば

 子どもが一人で悩(なや)みを抱(かか)え込(こ)まないように、大人が学校や公民館に、子どもの「居場所」をつくることが大切です。子どもが電話で悩みを相談できるサービスもありますが、相手の表情が分からず、知らない人には話しにくいという人もいるでしょう。学校の心理カウンセラーにも協力を呼(よ)び掛(か)けて、居場所のない子どもたちを温かく迎(むか)え入れ、お互(たが)い話ができるような相談室をつくっていきましょう。

②まずは話を聞いて

 相談に乗る時は一方的に意見を言うのではなく、相手が心を開くまで待ってから話を聞くことが大切です。相手を責めてはいけません。自分から望んで悩みを抱えているわけではないので、心を傷つけます。身近な大人に対して子どもは「心配をかけたくない」という気持ちになります。親や学校の担任とは違(ちが)った、知人や友人が相談に乗るといいでしょう。子どもと親や先生が話し合う時は、子どもと大人両方の視点を持ち合わせた第三者がいると役立ちます。

③自身の行動も大切

 自ら進んで行動することで、自分の人権を守ることもできます。学校に行きたくない時、家にも帰りたくない時は、心が折れそうで、マイナス思考になりがちです。自分の存在する意味さえ分からないことがあります。そんな時、例えばボランティアに参加してみてはどうでしょうか。ごみ拾いをしたり、お年寄りの家を地域の人と訪問したりすることで、だれかの役に立つ喜びを感じられれば、自信がつき、みんなも笑顔になれると思います。

子どもの権利条約

 1989年の国連総会で決定された。日本は94年に同意している。「子ども(18歳未満のすべての人)にとって一番良いことは何か」を国全体で考えないといけないと定める。子どもの権利の基本として、健康に生まれ安全な水や十分な栄養を得て、健やかに成長する「生きる権利」▽あらゆる差別や虐待(ぎゃくたい)、搾取(さくしゅ)に遭(あ)わない「守られる権利」▽教育を受け、休んだり遊んだりできるほか、考えや信じることが守られ、自分らしく成長する「育つ権利」▽自由に意見を表したり、集まってグループをつくったりして活動できる「参加する権利」―の4点を示している。2014年11月現在、194カ国・地域が条約を結んでいる。

 中国新聞ジュニアライターが、さまざまな視点から「平和」を捉え、取材・紹介する「Peace(ピース) Seeds(シーズ)」は、今回でいったん終了します。被爆・戦後70年の来年、装いを新たにして「ピース・シーズ~ヒロシマの10代がまく種」をスタートさせます。1月8日から、毎月第2、第4木曜日にお届けします。

(2014年12月8日朝刊掲載)

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