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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「父と暮せば」(井上ひさし著) 記憶伝承 簡単でない

 原爆で父や親友を失った主人公の美津江。「あの日」から約3年たっても、被爆した時の記憶が鮮明(せんめい)によみがえります。好きな人ができても「自分だけ生き残って申し訳ない。ましてや幸せになってはいけない」と、結婚への思いを打ち消そうとしていたのです。

 そこに現れたのが父の幽霊(ゆうれい)。「生き残った人に決して後ろ向きに生きてほしくない」。娘の幸せを願う父の本心を聞き、心が解きほぐされます。素直に人生の一歩を踏(ふ)み出そう―。父に感謝の気持ちを伝え、別れを告げます。

 負い目を感じ、自分の幸せを否定しないと生きられない美津江の境遇(きょうぐう)は、私には想像しにくいです。夢や幸せを思い描くことは当たり前だと感じていたからです。

 被爆した人がつらい記憶をあえて私たちに話してくれることは簡単ではないのだと今回、気づきました。だからこそ、ジュニアライターとしてしっかりと話を聞き、平和が大切だと多くの人に理解してもらえるよう、記事を書きます。世界から人種差別や紛争(ふんそう)がなくなり、だれもが幸せに明日を迎(むか)えられる日が早く来ることを願います。(中2鬼頭里歩)

(2015年9月21日朝刊掲載)

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