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ジュニアライター発信

Peace Seeds ヒロシマの10代がまく種(第14号) 広がれ 折り鶴再生の輪 

 広島市内にある被爆者(ひばくしゃ)の慰霊碑(いれいひ)、中でも平和記念公園(中区)にある原爆の子の像には、全国さらには海外からも、膨大(ぼうだい)な数の折り鶴(づる)がささげられています。その折り鶴に込められた思いを生かそうと、再生紙などによみがえらせる動きが年々広がっています。

 ノート、はがき、鉛筆(えんぴつ)、Tシャツ…。用途はさまざまですが、折り鶴を再生した商品であることが記されています。原爆ドームの紙模型など、それ自体が平和を訴(うった)えている商品もあります。

 広島に届けられた折り鶴が再生紙などに生まれ変わり、商品として再び平和を訴えるまでの流れを取材しました。そして、折り鶴に込められた平和への願いや、それを再利用によって受(う)け継(つ)ごうとしている人々の心を受け止め、再利用がさらに広がって世界に届いてほしい―との思いを強くしました。

<ピース・シーズ>
 平和や命の大切さをいろんな視点から捉(とら)え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲(さ)かせるため、小学6年から高校3年までの49人が、自らテーマを考え、取材し、執筆(しっぴつ)しています。

平和の祈り 受け継ごう

 平和記念公園内の原爆の子の像。原爆症が治ると信じて鶴を折りながら、12歳で亡くなった佐々木禎子(さだこ)さんの同級生たちが運動して建てました。今では毎年1千万羽、10トンの折り鶴がささげられています。

 広島市平和推進課の住田達哉主幹(46)によると、折り鶴は焼却(しょうきゃく)したり、保存・展示したりした時期もありました。再利用が始まったのは2012年5月。世界中の人たちの折り鶴に込(こ)めた思いを昇華(しょうか)させる方法を検討した結果、再利用して広く平和を発信することにしたのだそうです。

 現在は市が希望者に、基準を満たしていれば必要な量を支給しています。多いのは再生紙にして商品化する方法。約30の障害者のための作業所で製紙工場へ送るため仕分けをしています。記念品として贈(おく)られたり、平和を願うイベントで焚(た)かれたりするケースもあるそうです。(中2鬼頭里歩)

預かる 保管庫2ヵ所

ぎっしり 77トンの願い

 原爆の子の像などにささげられた折り鶴は、一定の期間が過ぎると市内の倉庫2カ所へ移されます。そのうちの一つ、中区の旧中環境事業所(かんきょうじぎょうしょ)を訪ね、庁舎2、3階に保管されている折り鶴を見ました。

 私たちは思わず喚声(かんせい)を上げました。量の多さに圧倒(あっとう)されたのです。大人2人でやっと手が届くほど大きなビニール袋(ぶくろ)に詰(つ)め込まれた折り鶴が、天井(てんじょう)までぎっしり積み上げられ、部屋には狭い通路があるだけです。

 色とりどりの折り鶴の束。折り鶴を台紙に貼(は)って絵や文字にしたモザイク作品の山。現在保管されているのは計77トンで、うち20トンがここにあるそうです。平和への祈(いの)りが詰まったこんなにも多くの折り鶴を見て、再利用の取り組みが広がってほしいとあらためて思いました。(高2福嶋華奈)

分ける 障害者作業所

メッセージ 心震える

 折り鶴の再利用と取り組んでいる「すまいる☆スタジオ」(中区)を取材しました。障害のある約20人の就労を支援(しえん)する施設で、折り鶴を製紙工場へ送り、戻(もど)ってきた再生紙を商品に加工したり、売ったりしています。

 作業現場には大きなビニール袋に入った折り鶴が幾(いく)つもあり、その量に驚(おどろ)きました。濃(こ)い色、薄(うす)い色、再利用できない金銀の色やビニールなどの混じった折り鶴を仕分ける作業は、一緒にやってみると思いのほか大変でした。鶴を開くと「平和」などの文字が書いてあるものもありました。昔はこんな思いが詰(つ)まった鶴を燃やしていたのか―と複雑な気持ちにもなりました。

 スタジオの責任者、金子智範さん(43)は「折り鶴の再利用の目的は平和への願いや、障害者支援(しえん)、エコとさまざま」と話します。コストがかかるなどの問題点はありますが、この取り組みがますます広がればいいなと思いました。(中3上岡弘実)

生かす 再利用品続々

形を変え生き続ける

 折り鶴の再生紙を使った商品を、市平和推進課や平和記念公園内のレストハウスなどで見ました。ノートやメモ帳、カレンダー、名刺(めいし)、はがき、便箋(びんせん)、菓子箱(かしばこ)、鉛筆(えんぴつ)、折り紙…。折り鶴がNPO法人などによって多彩な商品に生まれ変わり、再利用の輪が広がっているのを実感しました。

 ノートは市内の学校へ配られたことがあります。被爆70年を迎え、市立の幼(よう)稚園(ちえん)や学校で来春の卒園・卒業証書に再生紙を使うなど、市も率先して再利用に努めています。再生紙を使った原爆ドームの紙模型は、広島を訪れた人々の土産にふさわしいと思いました。

 紙製品だけでなく、折り鶴を繊維(せんい)に混ぜてTシャツも作られています。紙粘土(かみねんど)にもなっています。折り鶴に込めた世界の人々の平和への祈(いの)りは、リサイクルされながら生き続けています。(高2上原あゆみ)

込める 原爆の子の像

世界から 広島を思い

 原爆の子の像の周囲には、赤、黄(き)、ピンクとさまざまな色の折り鶴の束がぎっしり並んでいました。平和な青空を思わせる水色も目立ちました。

 台紙に多数の折り鶴を貼(は)って文字や絵を描(か)いたモザイクの作品もありました。大変な時間とエネルギーをかけたことが分かります。

 ささげたのは日本各地の学校のほか、米国やブラジルの大学名もありました。外国の人が像の鐘(かね)を鳴らしていました。世界中の誰(だれ)もが、平和を強く願っているのだと、あらためて感じ、心が引(ひ)き締(し)まりました。(小6植田耕太)

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活用法 私たちのアイデア!

 折り鶴の新しい再利用法を、ジュニアライターで検討しました。「平和への願いを世界へ伝える」「広島らしいお土産となるもの」などを前提に考えたベスト3は次の通りです。(中2鬼頭里歩)

1.2020年東京五輪・パラリンピックの入場券
<理由>平和の祭典に訪れた世界の人々にヒロシマを知ってもらえるから

2.割り箸の包み紙
<理由>多くの観光客は広島のお好み焼きを箸で食べると考えて

3.ヒロシマをテーマにしたかるた
<理由>遊びながらヒロシマを知ってもらうため

(2015年7月23日朝刊掲載)

【編集後記】
 僕は再生利用された紙を見て、この一枚の紙にも平和を願うたくさんの気持ちがこもっているのだと感じました。この再生紙をもっと世界に羽ばたかせ、世界中の人に平和を考えるきっかけにして欲しいです。(小6植田耕太)

 年間でおよそ10トン、1000万羽の折り鶴が広島に寄せられていると聞いていたけど、実際に倉庫で見てみると、その膨大な量に驚かされました。立体的な作品を含め千羽鶴でいろいろな作品が作られていて、折った人の思いを感じることができました。(中2鼻岡寛将)

 私は以前から折り鶴の再利用について取材してみたかったので、念願がかなってよかったです。折り鶴一つ一つは小さくても、その折り鶴に込められた「平和」を願う気持ちはとても大きいと思いました。(中2鬼頭里歩)

 折り鶴の再生紙を使った鉛筆を作らせてもらったのが、とても楽しかったです。これから鉛筆を使うたびに、思いが込められた何羽もの折り鶴で作られているのだと思い出すことができるでしょう。(中3上岡弘実)

 広島市中区にある折り鶴の保管倉庫に行くと、ビニールの袋に入った折り鶴が山のように天井まで積み上がっていて驚きました。ボールペンや付箋、メモ帳などに利用が広がってきましたが、これからさらにこの活動が広まって欲しいです。(高2福嶋華奈)

 今回、折り鶴の保管場所を訪れて驚きました。折り鶴をぎっしり詰めたビニールの袋が、天井に付きそうなぐらい部屋一杯に積み上げられていたからです。これほど多くの世界の人々が広島を思っているんだ、そして、その折り鶴が再生されて再び使われているんだ―と思うと、深い感動を覚えました。(高1坪木茉里佳)

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