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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」(美甘章子著) 憎しみを乗り越える

 原爆(げんばく)で家族も家も失いながら懸命(けんめい)に生きてきた美甘進示(みかも・しんじ)さんの体験を、幼いころから聞いてきた次女の章子さんが克明(こくめい)にまとめた本です。

 原爆が投下された時、さえぎるもののない屋根の上で作業をしていた進示さんは大やけどを負います。皮膚(ひふ)がはげた腕(うで)は、きな粉餅(もち)のようできれいだったという表現が衝撃(しょうげき)的(てき)でした。

 苦痛や疲労(ひろう)でくじけそうになったのを助けてくれた進示さんの父は行方不明となり、二度と会えませんでした。母や兄も病死や戦死をしました。私だったら、たった一人でゼロからスタートできただろうかと何度も思いました。

 焼け野原で出合った親切や残酷(ざんこく)な仕打ち…。被爆(ひばく)後、人々は寛容(かんよう)さと傲慢(ごうまん)さという反対方向に進んだ―との言葉に、人間の複雑さを考えさせられました。

 米国への憎(にく)しみから、多くの人々が広島を国際平和都市とすることに反対した中で、怒(いか)りや憎しみを乗(の)り越(こ)えた進示さんは賛成しました。再び戦争が起きないようにするためには、許す心と共感、広い視野が必要だと教えられたような気がします。(高2山田杏佳)

(2015年5月25日朝刊掲載)

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