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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「この世界の片隅に」(こうの史代著)

平和の正しさ 信じる

 広島市出身で戦後生まれの漫画(まんが)家こうの史代さんが、広島から呉に嫁(とつ)いだ主人公すずの戦時中の生活を描いた作品です。

 戦争の残酷(ざんこく)さが強調されているというよりは、当時の人々の暮らしぶりが淡々(たんたん)と表現されています。すずと夫との恋愛(れんあい)物語として楽しむこともできます。

 すずは爆弾(ばくだん)で右手を失ってしまいます。しかし、終戦を告げる玉音放送が流れた時、「最後のひとりまで戦うんじゃなかったんかね?」と、日本の敗戦を納得できない様子でした。すずの頭に浮(う)かんだ、「この国から正義が飛び去ってゆく」というフレーズが強く心に残っています。

 僕たちにとって戦争は悪いことで二度と起こしてはならないものです。それが共通の認識です。しかし、すずにとっては、玉音放送のその時まで戦争は正義だったのだと思います。

 時の流れとともに正しさは変遷(へんせん)し、いつしか「平和=(イコール)正義」という考えが覆(くつがえ)される時代が来るかもしれません。けれど僕は、命が失われることのない日常が続くことを願っています。そして平和の正しさをいつまでも信じ続けたいです。(高3谷口信乃)

(2016年9月19日朝刊掲載)

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