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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「第二楽章 ヒロシマの風 長崎から」(吉永小百合・編 男鹿和雄・画)

思いをどう語り継ぐ

 この本に収められた広島・長崎の原爆詩と体験記は、朗読を長年続けている俳優の吉永小百合さんが選びました。「第二楽章」という題は、戦争という激しい時を経て、穏(おだ)やかで平和な時代に入った今、自分たちが悲しい歴史をどう語り継ぐべきか考え、付けたそうです。

 紙面いっぱいに広がる優しいタッチの挿絵(さしえ)も心に響きます。峠三吉さんの詩など25編のうち、「娘よ、ここが長崎です」という体験記が最も切なく感じました。作者の筒井茅乃さんは長崎で被爆した医師、永井隆さんの遺児です。

 長崎に原爆が落とされた日、母は帰って来ませんでした。祖母が弁当箱に入れて持ち帰った母の白骨を見ても涙(なみだ)は出ません。出かける時まで元気だった母が、永遠に戻(もど)って来ないと誰(だれ)が想像できるでしょう。4歳になる前の子どもには突然すぎて、理解がとても難しかったと思います。茅乃さんは、母親になっても、つらい体験を「幼い娘(むすめ)を前にして、言葉では言い表わせなかった」と悩(なや)みます。

 決して忘れたわけではなく、話したくても話せない気持ち―。私の祖父も17歳の時に長崎で被爆しましたが、体験を私たち孫に話すことなく亡くなりました。被爆者の思いを私たちがどうくみ取り、受け継ぐべきか。考えさせられました。(中2川岸言織)

(2016年11月28日朝刊掲載)

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