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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「6千人の命のビザ」(杉原幸子著) 見殺しにしない信念

 国の意向に背(そむ)くけれど、信念に基づいて人道的に行動した外交官、杉原千畝(ちうね)の決断が印象に残りました。

 1940年、バルト海沿いの小国リトアニアに駐在(ちゅうざい)する杉原は、領事館の外に集まる群衆に驚(おどろ)きます。ナチス・ドイツの迫害(はくがい)を逃(のが)れてきたユダヤ人でした。安全な地に向かうため、日本を通過するビザ(査証)発給を求めているのです。ドイツは当時、友好国。日本の外務省は何度掛(か)け合っても発給を認めません。

 悩(なや)んだ末に杉原は独断でビザを出します。当時のソ連へのリトアニア編入に伴う領事館退去命令後も、約1カ月間続けました。私は初め、発給は当然と思いましたが、よく考えると、国の命令に反して実行するのはとても勇気が要ります。ぎりぎりの決断だったと感じます。実際、帰国後、外務省を辞(や)めざるを得ませんでした。

 時を経て、その功績は海外から評価されます。杉原は、筆者である妻に「外交官としては間違(まちが)いだったかもしれないが、何千もの人を見殺しにできなかった」と打ち明けたそうです。筆者もきっと同じ気持ちで、夫の行動がうれしかったと思います。(中2平田佳子)

(2016年3月28日朝刊掲載)

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