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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「図録 原爆の絵 ヒロシマを伝える」(広島平和記念資料館編) 被爆者の記憶を映す

 原爆を体験した広島の市民らが描(えが)いた絵を集めた本です。被爆者が見たものを、私たちがそのまま理解することはできません。それでも、絵を通して被害者の気持ちに一歩だけ近づけた気がしました。個人の記憶(きおく)が映し出された絵には、できごとを客観的に捉(とら)えた写真と違(ちが)う力があります。

 私は留学生としてカナダから来た高校生です。初めて縮景園を訪れたとき、日本庭園の美しさに心を奪(うば)われました。しかし、この本にあったのは、市民が火を逃れて川に入るという地獄(じごく)です。再び行った縮景園は景色が違って見えました。電車の中で人々が焼け死んだ紙屋町、ひどいやけどをした女の子がいた土橋町も描かれています。私の通学路です。

 海外では、きのこ雲の写真を見たり、「1945年に広島で14万人が死んだ」という大きな数字を学校で習うぐらいです。原爆の絵から、70年前の広島の様子や、名前も残っていない無数の犠牲者(ぎせいしゃ)が一人一人の人間だったという事実を知りました。

 絵の説明文や、描いた市民の言葉が、英語と日本語で印刷されています。世界中の人が同じ本を読み、亡くなった人たちのことを一緒に思ってほしいです。(高2アリエル・ドゥタンプル)

(2016年1月18日朝刊掲載)

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