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ジュニアライター発信

ジュニアライターの8・6取材

 ことしも原爆の日の8月6日、中国新聞ジュニアライターたちは積極的な取材活動を行いました。国連の軍縮担当上級代表(事務次長)の中満泉さん(54)にインタビュー。平和記念公園にやってきた海外の人たちの声も集めました。中高生25人で分担し、取材した成果を記事にまとめました。

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国連事務次長・中満さんに聞く

若い世代の発信が必要 核廃絶は身の回りから

 日本人女性として初めて国連の軍縮部門のトップになった中満さんへのインタビューでは国際的な仕事に就いたきっかけや、核兵器廃絶に向けて若い私たちにどんな期待を持っているのかを聞きました。

 国連職員を目指したのは私たちと同じ高校生の頃。マザー・テレサの映画を見て人に奉仕する仕事の大切さを知ったからです。「まず自分が情熱を持ってやりたいことを決め、目標実現のため何を勉強すべきか考えた」と話します。

 大学留学を経て念願の国連に入りましたが、「国同士がぶつかり合う場。理想ばかりではない」とも率直に語ります。今年春に今の仕事に就きました。最初の大仕事は、ついに7月に実現した核兵器禁止条約の交渉会議。国同士がぶつかり合う場で、交渉が前に進むよう中立的な立場から尽力しました。

 しかし、禁止をしても核兵器はなくなりません。これからが大切です。中満さんは「軍縮、と聞けばとても大きなことに思われますが、身の回りの取り組みが世界につながります」と呼び掛けます。「高齢化が進む被爆者に頼ることができる時期は長くない。あなたたち若い世代の発信こそ必要。自分に何ができるか考えて」と励まされました。

 核兵器禁止条約のことを考えれば、私たちの住む日本のことが気になります。条約に入るには、米国の「核の傘」から出なければならなくなります。どうすればいいのか。思い切って中満さんに質問しました。

 中満さんは「国連から来た私が答える立場にはない」と控えました。特定の国の安全保障政策について良い、悪い、と言うことはしないそうです。「例外は、核実験やミサイル発射を繰り返す北朝鮮や、化学兵器を自国民にも使用したシリアなど明確な国際法違反の場合」だそうです。

 中満さんは同時に「日本の安全保障政策は国民が議論し、政府の政策に反映させるべきもの」と話します。「核兵器禁止条約を通して、市民が核軍縮に関心を向けるきっかけになってほしい」と述べました。

 ジュニアライターへのメッセージを色紙に書いてもらいました。「日本と世界の未来はあなた達のものです。たくしますね‼」。次世代を担う私たちが核をはじめ世界を取り巻く問題に向き合い、多くの国の人々と対話し、積極的に発信していく必要があると思いました。(高2上岡弘実、岩田央、中2田所愛彩)

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広島訪問の外国人から聞き取り

 ジュニアライターは20人の外国人から書面で聞き取りました。8月6日に広島を訪れた印象、核兵器禁止条約への賛否、そして平和のためにこれから何をするか―。禁止条約については全員が賛成しました。核兵器の使用は人類の破滅につながるという考えは核を持つ国や、その同盟国の人たちにも共通していました。このうち5人の声を紹介します。

ベトナム 高校3年 ケビン・ニュエンさん(17)

各国指導者 相互協力を

 平和記念式典で広島市長たちのスピーチを聞いて、とても感動しました。核兵器禁止条約には賛成です。核兵器は世界中を危険に陥れ、戦争を終わらせることも、平和を実現することもできないからです。

 核兵器保有国などが条約を拒否している現状で、はっきりした意見を述べることは難しいのですが、平和な世界を達成するため、核保有国と非核保有国のリーダーが、互いに協力し合わなければなりません。

 僕は現在、ハワイの高校に通っています。日本の学校と交流し、平和を広めるため来日しました。今回の旅を通して広島で経験したことを、他の生徒と共有します。そして平和の価値や教訓について教えたいと思います。

英国 大学生 ソフィア・ベーカーさん(18)

平和を願う声広めたい

 核兵器禁止条約に賛成します。核兵器の威力はとても強大で、大国が核兵器を使うことが容易になっていると思えるからです。例えば、米国のトランプ大統領を見ていると、そんな気がします。

 私の住む英国は核兵器を持っていますが、それは間違っています。米国や核の傘に頼る同盟国は、そのパワーを持ち続けようとしていますが、それを許す権利なんて、どの国にもないはずです。

 8月6日のヒロシマは、私の心を揺さぶるものがありました。変化を求めていこうという気持ちを強くしました。市民社会の動きに自分も加わり、平和を願う自分自身のメッセージを広めていこうと思います。

オランダ 大学生 ローラン・マッスンさん(25)

核の被害は地球に影響

 原爆は人間のみならず地球に対しても平和より害をもたらします。だから核兵器禁止条約には賛成です。とはいえ核兵器の問題は非常に政治的です。潜在的な敵を持っていたり過去に敵対する国があったりした場合、「自国を敵から守るため」と言って核兵器を保有する現実も理解できます。

 オランダは非核保有国ですが、同盟国である米国の核爆弾を国内の軍事基地に置いています。国民はそのことを知っており世論の大多数は反対しています。

 米国や英国が積極的に核兵器を廃絶するとは思えませんが、まずはどこかの国が率先して自国の核兵器を放棄すべきです。そうすれば、ほかの国が後に続くと思います。

イラク クルド人評議委員会研究員 バキル・ウスさん(28)

毎年の式典 感銘受ける

 広島の人々が犠牲者を悼み、何が起きたかを忘れないため、そして戦争を防ぐため、毎年、平和記念式典を開いていることに感銘を受けました。72年前に広島で起きたことが再び起きないよう核兵器禁止条約によって防ぐことを望みます。

 私たちの生活は安全ではありません。イラン・イラク戦争末期の1988年、かつてのイラク政権はイラン国境に近い町、ハラブジャに化学兵器を投下し、クルド人の市民約5千人を殺害しました。核兵器のような大量破壊兵器を持つ国は危険です。

 平和教育を通して平和を促進したいと思っています。声を上げることで、戦争をやめ、核兵器をなくしていきたいです。

スーダン 大学研究員 アファフ・ヤヒヤさん(58)

自国からも核廃絶訴え

 核兵器は非人道的で破壊的です。なので私は核兵器禁止条約に賛成です。このまま核兵器が増えつづけると、いずれ世界は第3次世界大戦になるかもしれません。そうすればたくさんの人が傷つき悲しむことになります。このままでは人類は同じ過ちを繰り返してしまいます。

 スーダンは内戦に苦しんでいます。選挙のたびに暴動が起き、自分の意見と違う人に暴力を振るうことがあります。平和と言うには程遠い状況です。

 平和な世界にするために、私は地元から核兵器廃絶をするよう呼び掛けるキャンペーンをしたいです。政治家を対象に平和の授業をして、それぞれの知識を増やしていきたい。

 この取材は、高2岡田実優、上長者春一、中川碧、松崎成穂、岡田輝海、高1鬼頭里歩、川岸言統、藤井志穂、溝上藍、池田杏奈、平田佳子、岡田日菜子、中3伊藤淳仁、佐藤茜、川岸言織、フィリックス・ウォルシュ、中2平松帆乃香、植田耕太、森本柚衣、岩田諒馬、中1林田愛由、桂一葉が担当しました。

(2017年8月8日朝刊掲載)

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