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ジュニアライター発信

[ジュニアライターこの一作] 「夜と霧」(ヴィクトール・E・フランクル著、池田香代子訳)

「無感動」こそが危険

 この本を読んで感じたのは「ナチスが造った強制収容所は、この世の生き地獄(じごく)だった」という恐怖(きょうふ)です。実際に収容されたユダヤ人精神科医が筆者で、過酷(かこく)な体験と、収容された人たちの心に起きた変化を詳(くわ)しく書いています。

 劣悪(れつあく)な環境(かんきょう)と激しい労働に追い詰(つ)められた人々は、繰(く)り返される暴力や病による死に無感動になっていきます。筆者は「この不感無覚は、被収容者の心をとっさに囲う、なくてはならない盾(たて)なのだ」と書いています。しかし私は、その無感動こそが危険だと感じました。

 人は恐怖を何度も経験すると慣れてしまいます。そうすると、命が脅(おびや)かされる事態になっても気付かないことがあります。

 今、私たちの周りにも、無感動になっている問題があるのではないでしょうか。例えば、戦争放棄(ほうき)を決めた憲法9条を改正する話題です。当初は注目を集めましたが、時間がたつにつれ報道も減り、世間の関心も低くなったように思えます。

 このままでは政府に流され、気付いた時は手遅(おく)れになるのでは―。「夜と霧」は、戦争の恐(おそ)ろしさだけでなく、当たり前な毎日の生活の中で立ち止まって考える大切さも教えてくれています。(高1上岡弘実)

(2017年3月13日朝刊掲載)

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