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ジュニアライター発信

米兵と少女 心の交流 広島舞台アニメ映画「あの夏のライオン」

ジュニアライター「人は通じ合える」

 原爆が投下される前の広島を舞台に、乗っていた米軍機が撃ち落とされながらも生き延びる米兵の青年と、戦争で父親を失った少女の心の交流を描いたアニメ映画が完成した。作家の田中渉さん(49)=東京都渋谷区=が作画、監督した「あの夏のライオン」。平和をテーマに取材・活動している中国新聞ジュニアライターが鑑賞し、感想を伝えた。

 27分の作品は戦前、父とライオンを見に行くのが好きだった少女の紹介から始まる。戦争が始まると父は召集され、寂しさは募る。そこにパラシュートで降りてきたのは金髪がたてがみのような米兵青年。回復した青年と一緒にライオンになって草原を走る夢を見て原爆投下の日を迎える。

 田中さんが構想を練り始めたのは2012年、被爆米兵を調べてきた広島市西区の歴史研究家、森重昭さん(79)の著書「原爆で死んだ米兵秘史」を読んだことがきっかけ。国が敵対し合っても、1945年7月に墜落した米軍機の兵士を、住民が看護し、弔った内容に感銘を受けた。

 歴史上に表れない人間の優しさ―。99年の小説家デビュー以来、書きたいと探していたテーマだった。米兵12人が被爆したという森さんの調査に加え、新たに「13人目」を映像で表現しようと思い、粗筋を考え始めた。思い浮かぶ象徴的なシーンは画用紙に鉛筆と水彩絵の具で描きためた。その数は約200枚に上る。

 昨年6月、広島市出身の映画美術監督の部谷京子さんの勧めでアニメ映画として制作を本格化。協力する有志にも出会えた。森さんらと米軍機の墜落地などを見学した広島取材を経て、11月にあった広島国際映画祭で初めて上映した。

 今回の上映会は、中国新聞社(中区)であり、ジュニアライター13人が参加。見終えた後、インターネットのビデオ電話を通じて田中さんに「国や言葉が違っても人は心を通じ合える。僕らも平和な世界をつくるため友達に作品を紹介したい」などと伝えた。田中さんは「核兵器廃絶は日本人だけではなく、世界の人に関わる問題。多くの人に見てもらい、人を信頼する大切さを感じてほしい」と話していた。(山本祐司)

(2017年1月23日朝刊掲載)

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