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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 卒業生にインタビュー 経験生かし それぞれの道

 「中国新聞ジュニアライター」として活動する中高生たちは、核兵器の問題や貧困、環境などの幅広(はばひろ)いテーマを取材し、月1回の特集記事を書いています。2007年1月から始まり、経験者は約150人います。今回、広島を離(はな)れて暮らしている3人の卒業生に、テレビ会議システムを通じてインタビューしました。ジュニアライターの経験を生かしてそれぞれに奮闘(ふんとう)している「先輩(せんぱい)」たちの姿を取材しました。

二井谷栞さん(22)=東京都

ヒロシマ伝える場 企画

 中高を通してジュニアライターとして意欲的(いよくてき)に活動した二井谷栞さん(22)。上智大看護学科で学びながら、ヒロシマについて伝えるため自分にできることを考え、取り組みました。

 1年生の時、広島で原爆被害や復興(ふっこう)について学ぶ「ひろしまツアー」を学内で企画しました。留学生たち4人が参加。3泊4日で、原爆資料館(広島市中区)と大和ミュージアム(呉市)を見学し、被爆証言を聞いたり、お好み焼きの歴史について学んだりしました。ジュニアライター活動で出会った被爆者たちに協力してもらいました。

 きっかけは、大学の国際寮(こくさいりょう)に住む約50カ国から来た留学生約200人の存在でした。ヒロシマを知ってもらいたいと考えました。ツアーは、翌年から大学が費用を補助(ほじょ)し、毎年開かれています。参加者は年々増え、留学生は母国に戻ってからも家族や友人に広島で学んだことを伝えています。

 二井谷さんは「原爆の被害だけでなく、日本の戦争中の加害の側面も伝えながら、平和について一緒に考えている」といいます。ツアーや国際寮での生活を通じて、平和や原爆についての考えが多様であることに気付いたからです。卒業後は都内の病院で看護師として働く予定です。「命と向き合う機会を大切にしたい」と話していました。

石井大智さん(24)=香港

デモ情報 現地から発信

 石井大智さん(24)は慶応大総合政策学部を卒業後、2018年9月から香港中文大の大学院で文化人類学を研究しています。大学時代にインターンシップで訪(おとず)れ、多様な人種や民族が集まる社会に関心を持ったそうです。

 香港では、19年6月ごろから「逃亡犯条例」の改正案に抗議(こうぎ)する市民のデモが始まりました。逮捕(たいほ)された容疑者を中国本土に引き渡すことができるようにする内容で、中国に批判的(ひはんてき)な活動をする人たちの人権や、民主主義のこれからについて、不安がさらに広がりました。石井さんの大学院では同年11月にデモ隊と警察が衝突(しょうとつ)しました。

 石井さんは、学内で起きていることについての情報をツイッターで発信しました。大切にしたのは、実際に見たり聞いたりしたことを正確に伝えること。ジュニアライターとして多くの被爆者の証言を聞きながら「教科書で学んで終わりではなく、当事者に聞かなければ分からないことがたくさんあると気付かされた」と振り返ります。

 香港で出会った人たちから学んだこともあります。「戦争を多面的に見れば、何が良くて何が悪いのか、はっきり線引きできないことがある。二度と繰(く)り返さないため、自分に何ができるのか考えて行動するべきだ」と話しました。

 逃亡犯条例は改正されませんでしたが、中国が昨年、香港国家安全維持法(ほんこんこっかあんぜんいじほう)という法律をつくりました。民主派と呼ばれる人たちが逮捕されています。石井さんはビジネス専門誌に香港情勢(じょうせい)の記事を書き、最近はデモに関する本を出版しました。今後も活動の幅を広げていくそうです。

池田穂乃花さん(20)=兵庫県西宮市

オンラインで慰霊碑案内

 関西学院大社会学科2年の池田穂乃花さん(20)は、高校生の時、ジュニアライターの活動に加えて、学校の平和学習や平和記念公園の慰霊碑(いれいひ)めぐりの案内活動に力を入れていました。

 大学に進学し、2019年に友人2人と「Face to Peace」というグループを作りました。新型コロナウイルスの感染が拡大(かくだい)する中、広島に足を運ばなくても原爆被害や平和について学べる機会を提供(ていきょう)しようと、オンラインのイベントを始めました。

 20年5月から月1回、テレビ会議システムを使い、碑めぐり案内や参加者同士のディスカッションを計8回開催(かいさい)。碑めぐり案内では、事前に撮影した写真や動画を見せて、碑が建てられた背景や場所を丁寧(ていねい)に説明します。「慰霊碑には被爆者の平和への強い思いが込められている」と池田さん。東京や長崎などの学生たちが参加しました。

 「核兵器が存在するかぎり、使われるかもしれないという恐怖(きょうふ)は続いているのです」。もっと多くの人に、核兵器の問題を自分に身近な問題として考えてもらうのが目標です。4月から全国の戦争犠牲者(ぎせいしゃ)の追悼施設(ついとうしせつ)を紹介(しょうかい)するオンラインイベントを開くそうです。

私たちが担当しました

 この取材は、高3伊藤淳仁、斉藤幸歩、フィリックス・ウォルシュ、高1岡島由奈、桂一葉、四反田悠花、中3中島優野、三木あおい、中2田口詩乃、武田譲、畠山陽菜子、山瀬ちひろ、中1吉田真結、相馬吏子が担当しました。

 取材を通して中国新聞ジュニアライターが感じたことをヒロシマ平和メディアセンターのウェブサイトで読むことができます。

(2021年3月1日朝刊掲載)

【取材を終えて】

~二井谷栞さんへの取材~

 私は、ジュニアライターになって、平和のために何か自分にできることはないかとずっと考えていました。そのヒントを今回得ることができたと思いました。

 まず、ジュニアライターの活動をしっかりすること。自分にある程度知識がないといけないし、活動を通していろいろな人とつながることができるからです。なので、これからより多くの活動に参加してきたいと思いました。そして、実際にヒロシマのことを伝えるとなったとき、一方的にならないこと。原爆は悪い、絶対ダメというのを押し付けるのではなく、相手の意見をきちんと聞くようにしたいと思いました。

 また、被害の部分だけでなく、加害の部分も伝えるようにしたいと思いました。そうすることで、相手もこちらのことを聞こうと思ってくれるだろうし、自分の意見を脇に置いておけるので、いろいろな意見を受け入れられると思います。これらのヒントを今後の活動に生かしていきたいと思います。また、二井谷さんを見習い、自分のクラスなどでヒロシマについて話し合うなどできるといいと思いました。(中2田口詩乃)

 二井谷さんの「自分の価値観や感情を全て取り払って、初めて分かることが多くある」という言葉がとても印象的でした。私は今まで、核は何があっても無くさなければならないものだと思っていて、核保有国の人々の思いや、なぜ核兵器が必要だと思っているのかを深く考えようとしたことがありませんでした。

 自分の考えに誘導したり、人の考えを否定したりせずに話すのを心掛けていると聞き、ただ人に伝えるだけでは駄目なのだと分かりました。また、積極的に何事にも挑戦しているのがすごいと思いました。たくさんの経験をしてさまざまな人の意見を聞いている二井谷さんの言葉は、一つ一つがとても心に残りました。(中3三木あおい)

 今回の取材で、背景に目を向けないと何を訴えてもだめだと二井谷さんは話しました。自分の価値観を押し付けていってもまわりの人は響かないし、ちゃんと聞こうと思わないと思います。また、相手がどんなことを思っているのか、どのような考えがあるのかを知る事で、自分自身の考えの幅を広げることができると思います。一つの考えにとらわれるのではなく、多くのことに目を向け、新しい知識などを知り深く考えることが大切だと思いました。(高1桂一葉)

 ジュニアライター卒業後も、二井谷さんは現役のときに培った人脈を大切にしていました。自分で決めたことを実行する際、周りの支えがあったからこそできたこともたくさんあります。今回の取材では平和に関する活動を続ける大切さを学べただけでなく、人と人との繋がりについて考えるきっかけを得ることもできました。私は4月から大学で教育について学びます。今回学んだことを、教育の視点からもう一度考え、自分の中でさらに発展させていきたいと考えています。(高3斉藤幸歩)

 二井谷さんが大学生になって学んだと話していたことの一つに、人脈の大切さがありました。核拡散防止条約再検討会議の取材のために訪れたニューヨークで知り合った人とのNY会や、Facebookを通じて何かあれば連絡をしていたことによって、人間関係が続いていたそうです。その結果、ひろしまツアーで生協の方や被爆者の箕牧さんに協力してもらうことができました。私も3月で高校を卒業しますが、ジュニアライター時代や高校での人間関係を大切にしたいと思いました。(高3伊藤淳仁)

~池田穂乃花さんへの取材~

 池田さんのお話を聞いて、あらためて核兵器は怖いと思いました。というのも、正直、核兵器が今使われるかもしれないということについて、私はあまり実感を持っていませんでした。でも、原爆の事実を過去のものにしてはいけない、という池田さんの話を聞いて、今も核の脅威が近くにあることを再認識しました。

 ジュニアライターをやっていると、いろいろな人に出会えるという話も印象的でした。特に、サーロー節子さんが言ったという「資料でみたことだけをそのままうのみにせず、自分で考えることが大切」との言葉が、より鮮明に残っています。池田さんは、慰霊碑の存在を伝えることは、被爆者の声を伝えることだとも話していました。この話を聞いて、広島に多くある慰霊碑の役割に気づかされました。

 最後に、池田さんたちが6人で活動するFace to Peaceの名前の由来について教えてもらいました。一人一人の思う平和は違うはずなので、たくさんの人にそれぞれの平和について考えてもらいたいそうです。私も、さまざまな角度からみた平和のあり方について、これからの活動を通じて考えてみたいと思いました。(中1相馬吏子)

 平和について自分が学んだことを人に伝えるために自ら行動しているのがすごいと思いました。特にオンライン碑巡りが印象的で、広島に直接来るのが難しい他県の人にも伝える方法としてとてもいいアイデアだと感じました。私も、今こうしてジュニアライターで学んでいることを人に伝えられるように行動したいです。(中2畠山陽菜子)

 自分と近い年齢で、ジュニアライターの先輩でもある池田さんにお話を伺って、平和活動の大切さをより身近に感じました。特に「Face to Peaceのメンバーは平和活動の経験者が多い」という池田さんの言葉が印象的でした。平和活動を通じて興味を持ってもらえるのなら、これまで以上にその場を増やすこと、そして広島だけにとどまらず日本全国、全世界へと広めることが大切です。そのためにまずは、これまでのジュニアライターの活動に加え、その存在を学校の先生や友達など身近な人に伝えていこうと思います。(中1吉田真結)

 取材をしている時、池田さんはFace to Peaceで常に参加者の事を考えながら活動しているのだと感じました。例えばSNSで発信するとき写真を載せるだけでなく説明を詳しく丁寧に行っているところです。また、見る人が基本的な情報を以外も学べるように新しい切り口でポスター展をしたいと考えているとおっしゃっていました。私もこれから相手の立場に立って伝えていきたいです。 (中3中島優野)

 学生が自分たちでFace to Peaceという団体をつくり、オンライン碑巡りやディスカッションを行っているということに驚きました。今日の取材で、広島や原爆について深く知ってもらうために慰霊碑が大切な役割を果たしている、ということや、情報を自分の中にインプットするだけではなく、いろいろな事に挑戦してアウトプットしていくことが重要なのだと分かりました。(中3三木あおい)

 池田さんが行われている平和活動、「Face to Peace」の活動目的である、「一人一人が平和について考える時間を設ける」という言葉が心に残りました。私も、まずは多くの人が平和について考えるきっかけを日常に持つことが、核廃絶のために重要だと考えるからです。「平和公園にある慰霊碑を伝えることは、被爆者の方の声を伝える助けになる」と力強く話す池田さんを見て、私も慰霊碑について学び、観光客に向けて碑巡りができる人になりたいと思いました。 (高1岡島由奈)

 県外の大学に進学したのにもかかわらず、核が二度と使われないように活動を始めようという志や活動力に驚きました。そして、活動を始めようと思っただけではなく、多くの人に興味を持ってもらえるようにオンライン碑めぐりを開催されていました。広島にいなくとも、自分が今まで学んだ事を発信することができるのだと意識が変わりました。そして、広島に少しでも興味を持ってもらうことが平和に貢献しているのだと思います。(高1桂一葉)

 今回の取材の中で、私自身のジュニアライターの経験も踏まえて大きく共感したことがあります。それは、慰霊碑を紹介することが被爆者の声を伝える助けになるという考えです。私も過去に取材で碑めぐりをしたことがあり、被爆者の思いを直接聞くこととはまた違った体験ができたのを覚えています。活動の一環で、池田さんはオンライン上で慰霊碑等を紹介していました。私も、今後同世代を中心に慰霊碑を紹介できるような機会を作ってみたいと思います。 (高3斉藤幸歩)

 私は4月から県外へ進学します。そのため、広島から出ても活動してきた池田さんの取材では自分に重なる話や、参考になる話がありました。特に、広島から離れてもできることをしたい。という思いを自分も持っていたため、池田さんのように県外からでもできることを、ジュニアライター活動や大学で出会った仲間としようと考えました。また、県外の人に説明する際は、相手の知識と知りたいことを意識しながら話すと聞いたことで、これまでと変わることも多くあるのだ、大学で県外へ出てからも模索しながら頑張ろうと感じました。 (高3伊藤淳仁)

~石井大智さんへの取材~

 石井さんの、価値判断からは入らない、という考え方に衝撃を受けました。ジュニアライターをするということは、公に自分の言葉を伝えるということなので、そこに価値判断が入るとどうしても先入観でものを見てしまいがちです。思ってみれば当たり前のことですが、まずは事実判断から入る、ということが大変重要なことであることがわかりました。(中2武田譲)

 今回の石井さんの話を聞いて実際に現場にいなくては分からないことがたくさんあるのだと感じました。私たちは香港の出来事はメディアを通してしか知る機会がありません。 インターンで現地をみて関心を持ち、現地の大学院に入るという決意がすごいなと感じました。私はまだ、将来何がしたい、こんな仕事がしたいなどはありませんが興味のあることはたくさんあるのでたくさん知識をつけ実践してみて、将来したいことを見つけていきたいです。 (中2山瀬ちひろ)

 石井さんの話を聞いて、実際に経験することの重要性を改めて学びました。また、メディアでは、政府が何をしたかなどの表面的な部分が取り上げられやすいけれど、市民の声を聞くことも大切だと分かりました。石井さんの「本人が話したこと全てが正しいと思ってはいけない」という言葉を聞き、聞いたことが本当に正しいかどうか自分で再確認するようにしようと思いました。(中3三木あおい)

 石井さんの「ジュニアライターの活動を通して直接聞いた声やデータの大切さを学んだことが今につながっている」という言葉が印象に残りました。私は今までそのことをあまり感じたことはありませんでした。しかし新型コロナウイルスの影響で取材をすることが減り、直接話を聞くことがその人の思いを知る大切な手段なのだと知りました。だからこの言葉が心に残ったのだと思います。これからジュニアライターの活動を通してたくさんの生の声を聞いていきたいです。(中3中島優野)

 今回の取材で一番印象に残ったのはどっちが良いや悪いと考えるのが不毛だと言われた事です。今までは、最終的にどっちが悪かったのだろうと取材が終わった後に思うことが多くありました。しかし、不毛と聞いて過去の事でどちらが悪いかを決めようとする考え方が平和ではないと思いました。自分なりに考えていますが、取材などをする事で新しい価値観や感覚を養うことができ、それをきちんと受け入れることの重要性が分かりました。(高1桂一葉)

 SNSを用いて、香港の様子を伝え続けている石井さん。「私が行うべきことは、あくまでも『事実判断』を伝えることであり、物事に対する『価値判断』をすることではない」と何度もおっしゃる姿が印象的でした。私は、ジュニアライターとして、事実判断はもちろん、取材を通して出会った人たちの魅力をいかにわかりやすく伝えられるかという意味で、価値判断も大切にしながら執筆を続けていきたいです。(高1岡島由奈)

 石井さんの「善悪から考える価値判断から物事を見極めない」という視点がとても印象的でした。また、SNSで情報を発信する際にいかにファクトに近いかに気を付けていると聞き、自身がジュニアライターとして記事を書く際に事実をありのままに表現することを意識して活動していきたいと思います。 (高1四反田悠花)

 石井さんを取材する前は香港でのデモについては聞いたことがあったが自分で何が起こっているかを調べたり、もっと踏み入ったことを知ろうとしたりはしませんでした。ですが、この取材を機に香港で起こっていた抗議活動の動画の視聴や香港がなぜ今の状況に至っているのかを理解するために香港の歴史も勉強しました。いろいろと調べていく中でだんだんと全体像が分かり、ZOOMの取材を見返すとより深く石井さんが話していたことを理解することができました。そして、今回私が香港について無知だった様々な事象と同じように他の国でも似たような問題は知らないだけで無数にあるのだと痛感しました。なので、平和について考えていく中で世界中の難しい政治や歴史の関係性を少しずつ知っていくべきだと考えるようになりました。(高3フィリックス・ウォルシュ)

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