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核なき世界への鍵

核なき世界への鍵 5・27から1年 <上> オバマ効果 廃絶署名は熱気欠く

 現職の米大統領としてオバマ氏が初めて被爆地を踏み、27日で1年。国内外の関心を集めたが、「核兵器なき世界」への具体的な行動は乏しいまま、大統領の任期を終えた。核増強も辞さないとするトランプ政権が誕生し、北朝鮮問題で国際情勢は緊迫度を増す。いま「5・27」が持つ意味を、被爆者や市民たちの声を基に考える。

 ゴールデンウイークの4日、原爆資料館(広島市中区)東館の入り口から入館待ちの長い列が延びた。ピーク時は「最後尾」の看板まで約100人。入館者は前年の同じ日に比べて35%増の1万2736人。1日の最多記録とみられる。

 館内ではオバマ氏が訪問時に寄せた折り鶴が展示されている。昨年度の入館者は173万人を超え、25年ぶりに過去最多を更新。先月26日に東館の新展示を公開し、余勢は続く。「オバマさんの折り鶴は、原爆に関心のない人たちが来館して被害を学ぶきっかけになった」。同館は歓迎する。

 「オバマ効果」は見学後の感想を記す「対話ノート」に見て取れる。「テレビでオバマさんを見ていて『あっオレって日本人なのに一度も広島に行ったことないじゃん』と気づき、とりあえず行ってみようと」(昨年6月1日)。同館によると、自らを見つめ直した日本人の記述が多い。

 盛況が続く資料館。そんな被爆地への関心の高まりを歓迎しつつも、西区の森川高明さん(78)はもどかしさも感じる。

 原爆の「黒い雨」を浴び、海外でその体験を証言してきた森川さん。訪問先で、「核兵器禁止条約」の締結を経て2020年までの廃絶を目指す平和首長会議(会長・松井一実市長)の署名集めをしてきた。今回改装された資料館東館では1階の情報コーナーに署名台が設けられた。ただ、筆を取る人はまばらだ。

 署名数は伸び悩む。首長会議は14年4月~15年4月の1年間で約110万筆を集めたが、15年4月から先月までの2年間で集まったのは約51万筆にとどまる。

 「核を保有している国々は、核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない」。昨年5月27日、広島を訪問したオバマ氏はこう訴え、被爆地の期待は高まった。森川さんもオバマ氏の車列を見守る沿道の群集の中にいた。市民の熱気を肌で感じただけに署名との落差を感じる。

 「問題意識が芽生えた市民にすぐにできる一歩が廃絶への署名。積もれば政治を動かせるのに」。首長会議のビジョンと署名が十分浸透していないと思う。

 もう一つの署名活動、「ヒバクシャ国際署名」も模索が続く。全ての国に禁止条約締結を迫るため、日本被団協の提唱で昨年4月に始まり約172万筆を得た。1954年の「ビキニ事件」を機に1年余りで3千万筆を超えたという国民的な署名運動を理想とするだけにギャップは大きい。

 今年3月、史上初となる禁止条約の制定交渉が米ニューヨークの国連本部でスタート。被爆地広島では若者の関心を広げようと、市民有志が事前に禁止条約の学習会を初めて開いた。首長会議は国際署名との合同イベントを検討中だ。首長会議事務局は「オバマ氏の折り鶴を目的に広島を訪れた人にも自発的に署名が広がってほしい。PRを工夫したい」。(水川恭輔)

(2017年5月23日朝刊掲載)

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