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核なき世界への鍵

核なき世界への鍵 現在地 <4> 沖縄の感情 基地と軍縮 接点を探る

 南国らしく、冬でも校舎に強い日差しが降り注ぐ那覇市の沖縄尚学高。地域研究部の部員4人は、2月に取り組む年に1度の「核兵器禁止条約」の実現を求める街頭署名を前に、活動の意義を確かめ合った。

 「沖縄戦も原爆も、若い世代が記憶を受け継がなければ忘れられていく」と発言したのは1年の田場太基さん(16)。部の活動で昨夏に広島市を初訪問。被爆者の体験を聞き、原爆資料館(中区)を見学し、その思いを強くしたという。

 同高は、教職員の研修交流を機に2007年から福山市の盈進中高と、平和や人権問題への取り組みを生徒が発表し合う「中高生平和サミット」を開催。08年サミットで「核廃絶!ヒロシマ・中高生による署名キャンペーン」が提案され、広島市中区の広島女学院中高を含めた3校で主導するようになった。署名を毎年、平和首長会議(会長・松井一実広島市長)を通じて米ニューヨークの国連本部に提出。これまでに50万筆近くを届けた。

 活動の主力である地域研究部の部員は現在20人。沖縄戦で傷病兵の看護に動員された学徒隊の体験継承に力を注ぐ。被爆地にも関心を寄せるのは、戦争のあらゆる痛みと向き合うとともに、「再発防止」へ行動するためだ。「沖縄と広島はつながっている。歴史をもっと知り、周りに伝えなければ」と2年の新城開斗さん(17)は言う。

 ただ、部員たちは街頭に立つと、「頑張って」と声を掛けられる半面、被爆地ほどの市民の関心の高さを感じないという。「核兵器廃絶には賛成できない」と拒否されるときもある。加えて基地の島には、核兵器のない世界に共感しながらも、冷めた視線がある。

 昨年5月27日のオバマ米大統領の広島訪問を巡っても、受け止めは一様ではなかった。オバマ氏は米海兵隊岩国基地(岩国市)へ立ち寄り、「広島訪問は、敵同士だった日米が最も強固な同盟国になれることの証左だ」と演説。沖縄では、元米海兵隊員の軍属の男が逮捕された女性暴行殺害事件を巡り、県民の怒りが頂点に達していた時だった。

 「広島を訪れただけで、オバマ氏と安倍晋三首相は『いい人』にされた。だが沖縄にとって、オバマ政権の8年間にいいことは一つもなかった」。追悼集会の開催に携わった那覇市議の宮城恵美子さん(68)は違和感を口にする。「核兵器をなくせば、沖縄に平和が訪れるだろうか」

 沖縄では米国の統治下、住民の土地が強制的に接収され基地用地になった。本土復帰から45年になろうとする今も、国内の米軍基地の7割(面積ベース)が集中する。核軍縮の説得材料になる「核兵器がなくても通常戦力で十分対応可能」という理屈は、沖縄にとっては「基地の増強」という意味をはらむ。有事の際に、標的になりかねない。

 基地問題に詳しい沖縄国際大の前泊博盛教授(56)は「日本の安全保障政策が軍事一辺倒である限り、米軍基地を求め、『核の傘』にも頼る現状は続く」と指摘する。基地の島と被爆地の市民が共感し、紡いだ平和への訴えがあってこそ、核兵器廃絶への真の一歩になると説く。(金崎由美)

(2017年1月18日朝刊掲載)

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