×

連載・特集

継承のかたち 地域でたどる戦後75年 第4部 呉空襲と今 <2> 子どもたちへ

7歳の体験を紙芝居に

新しい上演担い手も

 ウーウーウー。夜の呉にサイレンがとどろいた。米軍の爆撃機が焼夷(しょうい)弾を次々と落とし、家を焼き払う。辺りは真っ赤に染まり爆発が続く中、2人の少女が駆ける。「お姉ちゃん、怖いよう」「手を離したらいけんよ。もう少しじゃ。防空壕(ごう)に入らんと!」―。

 1945年7月1日夜の呉空襲を描いた紙芝居「ふうちゃんのそら」の一場面。呉市の中峠(なかたお)房江さん(82)が7歳だった当時の体験を基に、2015年に制作された。中峠さんは小中学校や保育所に出向き、自ら上演してきた。

感謝の手紙届く

 夏場は1日3カ所を巡ることもあったが、ことしは新型コロナウイルスの影響で軒並み中止に。それでも、市内の中学校の教諭から手紙が届いた。「ふうちゃんのそら」を生徒の前で読み、皆が熱心に聞き入ったさまに触れ「本当にありがたい作品」とあった。

 「私はもう高齢。いつまで続けられるか不安だったが、新しい担い手が生まれている」と中峠さん。手応えに胸が熱くなった。

 中峠さんは市内で人形劇グループを率い、童話や民話、創作劇を上演してきた。だが、内容が空襲体験となると、子どもたちにどう伝えたらいいか悩んだ。長女が小学生だった時に体験をそのまま話すと、「怖いからしないで」と言われた経験があるという。

 市内の絵本作家よこみちけいこさん(48)との出会いが転機となった。10年前、東広島市のカフェでよこみちさん作の原画展を見て「昭和の懐かしさや優しさ」を感じた。「この表現なら、子どもたちも私の体験を受け入れてくれそう」。紙芝居の制作を頼んだ。

むごい表現抑え

 よこみちさんは中峠さんから何度も体験を聞き取り、18枚の絵にまとめた。むごたらしい描写はあえて抑えた。「伝えたいのは平和の大切さだから」。子どもの想像力を信じ、中峠さんの期待に応えた。

 「ふうちゃんのそら」は、現代の中峠さんが幼い孫に空襲体験を語り、回想する形で物語が進む。中峠さんが上演で心掛けているのは、子どもの「向こう側」にいる若い父母や、人生経験豊かな祖父母たちをイメージすることだ。

 「子どもたちが家に帰って、家族に戦争について尋ねてみる。大人が語る。それが平和につながる」。子どもから広がる継承の輪に希望を託す。(東谷和平)

(2020年8月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ