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[安倍長期政権の功罪] 自衛隊明記の改憲ならず 基地強化に懸念も

 約4カ月前、憲法記念日の5月3日。改憲派が開いたウェブ会合に寄せたビデオメッセージで、安倍晋三首相の口調は力強かった。「自衛隊は違憲というおかしな議論に終止符を打つためにも、憲法上、明確に位置づけることが必要だ」。9条へ自衛隊を明記する改正案への支持を訴えた。

 首相辞任を表明した8月28日の記者会見に、その力強さは消えていた。拉致問題、ロシアとの平和条約とともに、やり残した課題に憲法改正を挙げ、「志半ばで職を去ることは断腸の思い」と声を絞り出した。7年8カ月と歴代最長の連続在任期間をもってしても、届かなかった「悲願」だった。

海自OBら評価

 「自衛隊にこれほど目を向けてくれた首相はいない。改憲を果たせなかったのは残念だが、誰よりも首相自身が残念だろう」。海上自衛隊の基地がある呉市で、呉海上自衛隊協力会の内野静男副会長(74)は安倍首相の心中を推し量る。「改憲は自民党の党是。次の総裁に誰がなろうと、ぶれずに引き継いでほしい」と期待する。地元の60代の海自OBも「自衛官の社会的地位の向上に努めてくれた」と評価し、辞任を惜しむ。

 「明文改憲」には手の届かなかった安倍首相だが、辞任表明の会見で、自らの政治的遺産(レガシー)に挙げたのが「集団的自衛権に係る平和安全法制の制定」だった。2014年7月、歴代政権が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使容認を閣議決定。15年9月には安保関連法を成立させた。

なし崩しを危惧

 市民団体「ピースリンク広島・呉・岩国」呉世話人の西岡由紀夫さん(65)は「安倍政権は国のかじ取りを、国民の声を聞かず強硬に進めてきた」と、手法も含めて批判する。海自呉基地を母港とする護衛艦「かが」の改修方針が空母化といわれる規模に及ぶことなどに危惧を深め、「次の政権には専守防衛をしっかり守ってほしい。憲法の精神にのっとって政策を進め、課題があるなら国民全体で議論を深めるべきだ」と強調する。

 米軍と海自が共同で使用する岩国基地を抱える岩国市でも、危惧を共有する声が聞かれる。1日、基地の西約2キロにある同市牛野谷町の愛宕神社前の広場で、基地の機能強化に反対する住民団体が集会を開いた。「解釈変更で憲法9条をなし崩し的に無効化してきた。岩国基地の機能強化も続いた」。約60人の参加者を前に、主催した「愛宕山を守る会」の岡村寛世話人代表(76)は安倍政権を厳しく総括した。

 岩国基地は18年3月、在日米軍再編に伴う空母艦載機の移駐が完了し、所属の米軍機は約120機と従来の2倍に。さらに先月下旬には、米海兵隊の既存のFA18ホーネット戦闘攻撃機12機を段階的に最新鋭ステルス戦闘機F35B16機に更新し、4機増となる計画も明らかになった。

 安倍首相の辞任表明会見の日、取材に応じた福田良彦市長は「安全保障はどなたが総理をされても変わるものではない」と述べ、引き続き国の防衛政策に協力していく姿勢を示した。

 政府・与党はいま「敵基地攻撃能力」保有の検討も進める。安倍政権の「レガシー」は、憲法の条文を横目にするように、基地のある街に既にのしかかっている。(道面雅量、杉原和磨、池本泰尚、永山啓一)

(2020年9月2日朝刊掲載)

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