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社説・コラム

社説 検証・安倍政治 外交 「蜜月」の成果 物足りぬ

 約7年8カ月にわたり、日本外交のかじ取り役を担ってきた安倍晋三首相。2012年末に政権に復帰して以降、「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」「積極的平和主義」などを掲げ、80に上る国と地域の外遊を重ねた。

 米国のトランプ大統領やロシアのプーチン大統領をはじめ、各国の首脳と会談を重ね、関係構築に力を注いだ。

 日本の考え方や方針を直接会って伝え、理解してもらった意義は小さくない。安定した長期政権を背景に、国際社会で日本の存在感を一定程度高めたのは間違いないだろう。

 その一方で、首相自ら「戦後外交の総決算」と位置づけた北方領土を巡る日ロ平和条約交渉や、北朝鮮による日本人拉致問題は解決に至らなかった。

 プーチン氏との会談は27回に及び、緊密な「蜜月」関係をアピールしていた。4島一括返還を目指していた従来の政府方針を転換し、事実上の2島返還にかじを切った。にもかかわらず、関係に見合うほどの進展は見られなかった。

 「必ず安倍内閣で解決する」と明言した拉致問題でも、条件を付けずに北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に会談を呼び掛けた。しかし具体的な反応はなく行き詰まったままだ。

 「戦後外交の総決算」は果たせず、政治的遺産(レガシー)と呼ぶに値する成果は残せなかった。  安倍外交で際立ったのは、米国追従の姿勢だろう。旧民主党政権時代にぎくしゃくした日米関係を修復し、同盟の強化にも成功した。オバマ前大統領の広島訪問が実現したのも、その成果ではないか。

 トランプ氏に代わってからは「蜜月関係」を前面に打ち出した。米国第一を振りかざすトランプ氏の扱いに各国首脳が苦慮する中、会談やゴルフを重ね、個人的な関係を築いた。

 ただ見た目の親密さとは裏腹に、昨年の貿易交渉では、トランプ氏は日本に厳しい要求を突きつけた。貿易赤字の解消に向けて、最新鋭ステルス戦闘機など高額の防衛装備品などの購入を迫られ、首相も応じた。

 日米安全保障条約は不平等だとトランプ氏が不満をあらわにしても、その真意をただすことはしなかった。沖縄に偏る在日米軍基地の問題や、日米地位協定の見直しなど、残されている課題は多い。  「蜜月」関係の成果が見えてこない。実態は従属的な関係を強めただけではないか。いびつに映る対米関係の見直しが、大きな課題として残った。

 隣国である韓国、中国との関係改善も思うように進んだとは言い難い。

 中国に対しては、経済重視の協調路線に軸足を移し、ようやく改善機運が高まってきた。しかし沖縄県・尖閣諸島周辺海域への中国船による領海侵入や、香港の人権抑圧問題など懸案は山積したままだ。

 米中対立が激化する中、米国が対中強硬路線への同調を求めてきた場合、板挟みに陥る懸念が強い。どう対処していくのかも次期政権の課題だ。

 韓国とは元慰安婦や元徴用工を巡る歴史問題の対立をきっかけに、貿易や安保面まで不信の連鎖が広がっている。「重要な隣国」との関係を、このまま放置してはなるまい。

(2020年9月3日朝刊掲載)

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