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社説・コラム

天風録 『コロナか戦争か』

 心身ともに重たいのは夏バテではなく、コロナバテかもしれない。身の回りや社会を閉塞(へいそく)感が覆う日々に疲れる。経済も低迷して先が見えない。コロナ禍を一掃し、世の中を上向かせてくれる出来事はないものか▲敗戦で沈んだ日本を沸かせたのは「特需」。朝鮮戦争で米軍から軍需物資の発注があった。「笑いの止まらぬ毎日だった」と語る被爆者の証言が本紙に残る。「飛行機からばらまくタマ」を作って、注文に追われたと▲原爆で打ちのめされたのに「兵器をつくらねばならない皮肉なめぐり合わせ」と自嘲していた。大勢が死ぬ戦火で経済を潤すなどと、どんな苦境でも望んではならない。だが今も、閉塞感の打破には手っ取り早いと考える人がいるらしい▲戦争こそがコロナ禍を短時間で解消する方法ではないか―。信じ難い発言を新潟県燕市の教育長がした。米国や中国が戦争を始めれば「お金は動く」「きっと経済が上向く」とも。戦地の悲惨を想像できないのだろう▲愚かな人間が戦争を始めることを危惧した発言という。でも教育者としては失格である。コロナの被害は甚大で差別まで招く。戦う相手は人間でなくウイルス。それを忘れてはならない。

(2020年9月4日朝刊掲載)

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