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社説・コラム

天風録 『おぞましい「新入り」』

 演説上手で鳴らすドイツのメルケル首相も今回ばかりは、ぴたり当てはまる一言が見つからなかったのだろう。「できる限りの最も強い言葉で非難する」。持って回った言い方がかえって、事件のおぞましさを際立たせる▲ベルリンの病院で治療を受けるロシア反体制派のナワリヌイ氏について「ノビチョク系の神経剤が使われた。彼を黙らせようとした犯罪であることは明らか」と首相は断じた。その非難の矛先は、はなから事件への関与を否定するロシア政府に向く▲プーチン大統領の政敵とされるナワリヌイ氏は先月、シベリアからモスクワへ飛ぶ機中で意識を失った。搭乗前の空港カフェで飲んだお茶に毒が入れられたと支持者らは訴える▲それにしてもロシア内外で似通った事件が相次ぐ。2年前には英国で、ロシア人男性とその娘がこのノビチョクで毒殺されかかった。英政府は当時、ロシア軍の工作員2人による犯行と断定したが、結局はうやむやに▲ロシア語で「新入り」を意味する通り、ノビチョクは旧ソ連が戦後新たに開発した化学兵器で、今や保有するだけで条約に違反する。ロシア政府は今度こそ国際社会に向け、言葉を尽くして説明してほしい。

(2020年9月5日朝刊掲載)

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