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社説・コラム

社説 検証・安倍政治 安全保障 米国一辺倒では危うい

 安倍晋三首相は7年8カ月にわたる長期政権の間に、日本の安全保障政策の根幹を大きく変えた。

 際立っていたのは米国に追従する姿勢だ。日米同盟に偏重し、日本が戦後堅持してきた専守防衛の枠をはみ出しかねないほど、自衛隊と米軍の運用の一体化を加速させてきた。

 憲法9条に自衛隊を明記する改憲の悲願は果たせなかったものの、その基本理念である「平和主義」を事実上変質させたのではないか。

 中国の軍拡や海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル開発など、安全保障環境は厳しさを増している。ただ日本があまりにも米国に依存しすぎれば、厳しく対立する米中の衝突に巻き込まれるリスクを背負うことにもなりかねない。

 安倍政権の取り組みを検証するとともに、あらためて平和主義に基づく安保政策の在り方を検討すべきだ。米国追随の一辺倒では危うい。

 同盟強化に最も影響したのは、集団的自衛権の行使を容認した安全保障法制を2015年に制定したことだろう。首相も退陣会見で政権の成果の一つに挙げ、「互いに助け合うことができる同盟は強固になった」と胸を張った。

 集団的自衛権の行使は、他国の武力紛争に介入することになりかねず、海外での武力行使に当たるとして、歴代政権は憲法9条の下では許されないとしてきた。その憲法解釈を安倍政権は国会での議論を経ることなく、14年7月の閣議決定で一方的に変更した。

 自衛隊が地理的な制限もなく海外に派遣され、米軍と一体的に活動できるようになった。多くの憲法学者が違憲と断じ、反対運動は大きなうねりとなったのも当然だろう。

 世論は二分されたが、幅広く意見を聞いて合意形成を図るプロセスは省かれた。国会審議でも与党が数の力で採決を強行した。国民の間に分断や亀裂を深めた責任は大きい。

 国民の強い反対を押し切ってまで追随したにもかかわらず、米国のトランプ大統領は「自国第一主義」を掲げ、日本に次々と難問を突き付けてきた。貿易赤字の解消などを強く求められ、安倍政権は米国製の武器の大量購入で応じた。

 財政的な負担だけでなく、軍事的な役割分担にも積極的に応じようとする動きを強めていることも見逃せない。戦後日本の国是とも言える、憲法9条の「専守防衛」を形骸化させかねない恐れがある。

 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入断念を受け、攻撃ミサイルなど敵基地攻撃能力の保有を検討していることもその一つだ。首相は在任中に方向性をまとめたいと前のめりになっているという。

 敵国を攻撃する「矛」を米国に委ね、日本は「盾」に徹するのが日米安保の役割分担だ。それを根本から変えるもので慎重にも慎重を期した議論が欠かせない。辞任する首相の意向に合わせて急ぐ必要など全くない。

 安倍政権が変質させた安保政策は、今後の日本政治の重い課題として残る。日米同盟と東アジア地域の緊張緩和をどう両立させるのか。何を継承し、何を転換するのか。後継を選ぶ総裁選の争点とすべきだ。

(2020年9月6日朝刊掲載)

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