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社説・コラム

社説 広島の平和推進条例案 自覚と学び促す内容に

 平和行政はどうあるべきか。その理念などを明文化した平和推進条例(仮称)の議員提案に向け、広島市議会が論議を重ねている。早ければ本年度中の成立を目指すという。

 議論の舞台は、各会派を代表する市議でつくる政策立案検討会議。先月下旬にも開かれ、前文に加え全10条からなる「たたき台」が初めて示された。

 平和について「世界中の核兵器が廃絶され、戦争がない状態」と定義。市には平和推進の施策をつくり実施する責務があるとした。原爆が投下された8月6日は、永久に忘れてはならない「平和記念日」と定める。

 議会事務局によると、成立すれば広島市議会初の議員提案による政策条例になるという。今まで何をしていたのか、疑問に思う人もいよう。それでも平和に関する条例ができれば、多くの市民は理解するはずだ。

 被爆者の証言を直接聞けなくなる日が迫る中、「市の平和施策の根拠を明文化すべきだ」との議会内の意見を基に、昨年から本格的に議論している。

 条例案では議会自身の役割について、平和推進施策に関して機能を最大限に発揮し、長崎市議会と連携するとした。今は任意組織による交流にとどまるが、被爆地の市議会同士、核兵器禁止条約の批准を国に求めるなど力を合わせるべきである。

 市民の役割も、条例案に盛り込んでいる。市の施策に協力し、平和推進に関する活動を主体的に行う努力を求めている。

 確かに私たちも、平和の訴えを被爆者や平和関連団体、行政などに任せっぱなしにしていてはいけまい。被爆者がいなくなる日に備えて、記憶を継承し国内外に伝えていくことに可能な限り力を尽くす必要がある。被爆地に住む私たち一人一人の自覚と、主体的な学びを促す条例にしてもらいたい。

 子どもが平和について学ぶ機会は多い。しかし大学入学や就職・結婚で初めて広島に来た人の中には、基礎的な知識が身に付いていない人もいるだろう。

 詳しいはずの市議の話し合いでも難しい言葉を十分理解していないようなやりとりが散見される。例えば放射線による「後障害」。大量の放射線を浴びると脱毛や下痢などの急性症状が出て、免疫機能の破壊などで死亡することもある。後障害は、こうした急性障害と対比され、数年から数十年後に症状が出始める白血病やがんなどを指す。

 けがや病気が治った後も機能障害や傷痕が残る後遺症とは全く違うが、混同されがちだ。ただ、原爆や放射線に関する正確な知識を得ようとすれば難しい用語でも、避けては通れない。

 学校以外で知識を広める工夫が必要だ。条例で市民の役割を定める以上、市議会として、市民の学びをどう深めるか、考えないといけないのではないか。

 ただでさえ今、市議会には厳しい目が向けられている。昨年夏の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で13人が金を受け取ったとされるからだ。市議のほぼ4分の1に当たる。きちんとした説明を求める声が市民から出るのも当然だろう。自浄能力が求められている。

 同時に、執行部のチェックや政策立案・提言といった本来の役割を果たしているか。今回の条例づくりを通して、市議会の姿勢や力量が問われている。

(2020年9月14日朝刊掲載)

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