×

社説・コラム

社説 菅政権の課題 外交・安保 やみくもな継承危うい

 「安倍政治」の継承を掲げる菅義偉首相は日本の外交・安全保障をどうかじ取りするのか。新型コロナウイルス禍や米中対立の先鋭化で、不安定さを増している国際情勢は待ったなしの難問が山積している。

 菅氏は就任会見で、安倍晋三首相の掲げた「戦後外交の総決算」を目指すと表明した。日米同盟を基軸に、中国やロシアを含む近隣諸国と安定的な関係を構築するとしている。

 安倍前首相は自ら前面に立つ首脳外交に力を入れた。とりわけトランプ米大統領と築いた良好な関係は、他国の首脳からも一目置かれるほどだった。

 菅氏の外交手腕は未知数と言わざるを得ない。官房長官や総務相など内政分野を主に担当し、国際的な知名度は高くない。早速、トランプ氏らと電話会談に臨んだようだが、どんな成果が得られたのだろう。

 「安倍外交」を継承すると言っても、個人的な信頼関係をそのまま引き継ぐのは難しい。茂木敏充外相を再任したことで、外交戦略の継続性を確保するつもりなのだろう。

 菅氏は「外交は総合力」と強調している。言葉通り、官邸が独走するのではなく、外務省とも連携を深め、政府一体で外交を進めることが求められる。

 菅氏はこれまで、外交姿勢について体系だった発言をしたことはなく、具体的な戦略もまだ見えない。自らの外交構想を積極的に示すことが、国際社会から信頼を得る第一歩となろう。

 米国は11月に大統領選を控える。トランプ氏と民主党のバイデン前副大統領のどちらが当選しても、日米関係は変化する可能性が強い。

 安倍前首相は、国際的な枠組みを軽んじるトランプ氏の言動をいさめることはしなかった。強く求められ、巨額な米国製防衛装備品も大量に購入した。米国は年末にかけて、日本に米軍駐留経費の負担増をさらに迫る構えも見せている。

 日米同盟が基軸だとしても、行き過ぎた米国追従は改めなければならない。やみくもな路線の継承は危うい。米大統領との間で言うべきことは言える信頼関係をどう築くかが、菅氏に問われている。

 米中対立が先鋭化する中で、中国とどう向き合うかも大きな課題だ。

 南シナ海や沖縄・尖閣諸島周辺では中国公船が挑発的な行動を繰り返す。香港への介入など人権問題でも国際社会から強い批判を浴びている。国際秩序や人権を損ねる中国の姿勢は看過できない。日本の立場をしっかり伝える必要がある。

 安保政策では、他国からのミサイル攻撃を阻止する新方針の策定が重い課題になる。前政権が目指した「敵基地攻撃能力」の保有論議を継承するのかを含め慎重な検討が欠かせない。

 沖縄の基地問題も注目される。名護市辺野古沖への米軍新基地建設を巡って、政府と建設に反対する沖縄県の関係は極度に悪化した。

 前政権の官房長官として菅氏は沖縄に厳しい態度をとり続けてきた。しかし突き進むだけでは解決は難しいと分かっているはずだ。計画を見直し、真に寄り添う姿勢を示さなければ、事態の打開はできまい。いったん立ち止まって、行き詰まった政策を軌道修正する好機だ。

(2020年9月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ