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社説・コラム

社説 肥大化する概算要求 危機下でも歯止め必要

 2021年度予算の各省庁からの概算要求が出そろった。一般会計の総額は7年連続で100兆円の大台を突破した。

 財務省は今回、各省庁に前年度と同額の要求を認めた上で、新型コロナウイルス対策などの「緊要な経費」には要求額に上限を設けなかった。感染状況を見極めるとし、具体的な金額を提示をしない「事項要求」をする省庁もあり、実際には数兆円規模で膨らむ可能性がある。

 確かに感染の動向は見通せない。だが、そうした事情を差し引いても、肥大化した総額を見れば、財政規律を欠いた要求と批判されても仕方あるまい。国の財政は厳しさを増す。コロナ禍でも、緊急度の低い項目は削減するなど、規律と節度ある予算編成が必要である。

 厚生労働省は最も多い32兆9895億円を要求した。その上、ワクチン接種体制の構築や雇用調整助成金といったコロナ対策は「事項要求」としているため、総額はさらに積み上がる見通しだ。感染拡大の防止と経済活動を両立させるため、必要な予算は惜しむべきではない。しかし財務省幹部が「従来の施策を無理やりコロナに関連付けて便乗している」と指摘するような要求も見受けられる。

 総務省は地域の魅力を海外に発信する番組作りの支援に本年度当初予算比で8倍超の16億5千万円を要求している。

 国土交通省も以前から取り組んでいた海外へのインフラ輸出をはめ込む。同省はまた、防災や国土強靱化に関する経費も、金額を示さず要求している。豪雨災害などが相次ぐ中、万全を期す必要はあるが、絞り込みも求められる。

 菅義偉首相の看板制作であるデジタル化推進が、総額を押し上げた面もある。経済産業省はデジタルを活用した企業支援策に前年度の約2倍の400億円弱を要求。総務省は自治体のセキュリティー対策などに前年度比5倍以上の40億円を要求した。業務効率化を目指すはずが逆に予算を膨張させれば、行政改革に逆行しかねない。

 財政規律の緩みを象徴するのが、過去最大5兆4900億円弱を求めた防衛費と言えよう。従来装備に加えて、宇宙関連の経費も盛り込み膨れ上がっている。地上配備を断念した迎撃システム「イージス・アショア」の代替策や、安倍前政権から引き継いだ「敵基地攻撃能力」の保有議論の行方次第で、さらに巨額になる。東アジア地域で軍拡を競えば、防衛費は際限がなくなる。考え直すべきだ。

 真に「緊要な事業」を財務省は見極め、そうでないものは除外することが求められる。

 コロナの緊急対策費が加わった補正後の本年度一般会計総額はすでに160兆円を超えた。

 中小企業向けの給付金などを巡っては、不透明な民間委託が発覚した。すでに始めているコロナ対策の妥当性も検証せねばならない。

 来秋までにある衆院選をにらみ、歳出拡大を求める与党の族議員らがいるのだろうか。歳入の多くを国債発行の借金でまかなわざるを得ない日本の現状を考えれば、安易な予算膨張は許されない。

 初の予算編成となる菅首相の姿勢も問われよう。将来世代のためにも、財政規律を維持する姿勢を示さねばならない。

(2020年10月3日朝刊掲載)

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