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社説・コラム

社説 ベラルーシの混乱 大統領選のやり直しを

 東欧ベラルーシで大統領選を巡る混乱が収まらない。26年間も権力の座にあるルカシェンコ氏が8月の大統領選で6選を果たしたとするが、不正な選挙だとして市民は反発する。10万人以上が2カ月近く毎週末、首都ミンスクをはじめ各地でデモを繰り広げている。

 大統領選前、政権は反体制派や有力候補らを拘束するなどしており、正常な選挙でなかったのは明らかだ。市民がルカシェンコ氏の退陣や再選挙を求め、反発するのは当然だろう。

 政権側は市民の要求に応じないどころか、治安部隊によりデモ隊の排除、弾圧を続ける。一部は拘束された上、拷問されているという。

 ロシアがルカシェンコ氏を擁護しているが、欧州連合(EU)や米国は同氏や側近に対し、資産凍結などの制裁措置を打ち出した。ベラルーシ経済はロシアに依存してきたが、低迷している。欧米諸国などの制裁によって、孤立を一層深めることになるのではないか。

 長期にわたる圧政に、変革を求める市民の声は簡単にはやむまい。これ以上の混乱を避けるためにも、ルカシェンコ氏は退陣するか、少なくとも大統領選をやり直すべきだ。

 1991年に旧ソ連から独立したベラルーシ。94年の大統領選で当選したルカシェンコ氏は以来、四半世紀以上にわたり権力の座にある。3選を認めない憲法は改正した。一方で野党勢力や反体制派を排除しており、「欧州最後の独裁者」と呼ばれるのも無理はない。

 8月の大統領選でもルカシェンコ氏は80%の票を得て「圧勝した」と主張する。対立候補のチハノフスカヤ氏の得票が多数との報道もあったものの、政権の影響下にある中央選管の発表では10%にとどまった。「選挙結果は捏造(ねつぞう)」と反体制派が主張するように公正さは疑わしい。

 選挙前に逮捕された反体制派の妻であるチハノフスカヤ氏は「選挙結果を認めない」と公言し、拘束された。その後、出国した隣国リトアニアから「欧州はルカシェンコと彼の共犯者を制裁すべきだ」と訴えている。

 大規模デモに参加する市民や反対勢力の排除へ、政権側は強硬姿勢で臨んでおり、すでに1万人以上が拘束されたという。対話を通じて政権移行を目指す反体制の「調整協議会」は、幹部7人の大半が拘束や国外追放されている。ノーベル賞作家のアレクシエービッチ氏も先週、ドイツに出国。国内に残る幹部は1人となったという。

 米国やカナダ、英国が制裁を打ち出した。EUもベラルーシ当局者40人に対する資産凍結などの制裁で合意したものの、ルカシェンコ氏は対象外とした。ベラルーシを追い込めば、ロシアの軍事介入を招きかねない、という警戒感があるようだ。

 6年前、ロシアによるウクライナのクリミア併合を許したことへの反省もあるのだろう。

 とはいえベラルーシの独裁政権による反体制派やデモ参加者に対する拘束や拷問といった人権弾圧は看過できない。国連も人権状況を調べる国際監視団の派遣を検討すべきではないか。

 EUをはじめ国際社会がルカシェンコ氏に対して、市民や反体制派との対話に応じるよう求め、民主化など変革を迫っていかねばならない。

(2020年10月7日朝刊掲載)

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