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社説・コラム

社説 WFPに平和賞 注視せよ 飢餓との闘い

 国連世界食糧計画(WFP、本部ローマ)が、ことしのノーベル平和賞に決まった。ノーベル賞委員会が「飢餓と紛争は悪循環の関係にある」と述べたように、飢餓の解決はひいては紛争の解決につながる。平和賞にふさわしい決定として被爆地広島からも喜びを伝えたい。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって飢えに苦しむ人が世界各地で急増している。WFPはことし4月、今後迅速な対応がとられない限り、収入の低下や失業などによって急性栄養不良を抱える人が新たに1億3千万人増え、2億6500万人になると予測したばかりだ。

 地域紛争や気候変動で飢餓は深刻さを増しているところへ、コロナが追い打ちを掛けている。まさに飢餓のパンデミック(世界的大流行)である。

 WFPは国連では最大の人道支援機関である。輸送・物流手段を自ら持つ実動部隊でもあり、その役割はいやが上にも増す。WFPの全世界のスタッフやボランティアの励みになり、支援のための財源の確保にプラスに働くことを切に願う。

 飢餓のパンデミックは最も弱い立場にある子どもたちに、しわ寄せが及ぶだろう。日本でも一斉休校で給食を食べることができなくなった子たちの問題が浮上したが、そうした子たちは全世界では3億7千万人に上るという。WFPの役割はこうした問題でも期待されよう。

 WFPは昨年、61カ国で学校給食への支援を行った。貧しい国々では給食が1日で唯一の食事であることが多く、それなしには栄養を取れず、栄養不足は病気にもつながる。つまり学校が生命線でもある国々が厳然として存在することを、この機会に私たちは知っておこう。

 WFPは「多国間協調」をモットーとしてきた。授賞理由でもある。それは自国第一を掲げて国内外を混乱させているトランプ米大統領をたしなめる意味もあろう。自国第一主義、保護主義、孤立主義に陥ってはならない。それは二度の世界大戦の惨禍を経験した人類の教訓であり続けなければなるまい。

 WFPが北朝鮮で活動を続けていることにもあらためて敬意を表したい。約1千万人が深刻な食料不足の危機にあり、とりわけタンパク質が不足しがちだという。国際協調に背を向けて孤立を選んでいる国では、極めて意味のある支援だろう。

 また、世界各地の紛争国家は強権政治や腐敗政治に陥っていることが多く、食料も偏在しがちである。WFPの直接支援はその点でも役割が大きい。

 日本政府はWFPに昨年、約165億円を拠出した。ほかに民間の寄付金もある。横浜市に日本事務所を置き、現場経験豊富な広島市西区出身の焼家(やきや)直絵さんが代表を務めている。

 飢餓の解決のため、私たちにできることは何だろう。食品ロスを減らす運動の広がりは、世界の飢餓の現実を知るきっかけにもなる。こうした取り組みを通じてWFPへの寄付を募る動きが、活発になるといい。

 日本も戦後は食料不足に悩み「ララ物資」などの援助を受けたことがある。その記憶も遠ざかり、テレビでは芸能人の「大食い」番組が平然と放送されている。WFPへの平和賞は「食」を巡る意識の改革にもつなげたいものである。

(2020年10月11日朝刊掲載)

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