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社説・コラム

『潮流』 俯瞰的な視点

■呉支社編集部長 道面雅量

 安倍晋三前首相の辞任表明は8月下旬だが、それほど前に感じない。菅義偉政権の滑り出しが意外と滑らかでないせいだろうか。

 エリア内に海上自衛隊の拠点がある呉支社は、憲法改正をテーマに連載「安倍長期政権の功罪」のうちの1本を岩国総局とまとめ、9月初めに掲載した。

 その際、取材しながら、記事に盛り込めなかった談話がある。島根県立大の別枝行夫教授(戦後日本政治外交史)のコメント。憲法改正のインパクトは国内にとどまらない、国際的視野、特に東アジアの視座で考える必要がある、という趣旨だった。前文や9条の平和主義が揺らぐ印象を周囲に与えるリスクには真正面から向き合うべきで、戦後最悪ともいわれる日韓関係の改善こそ急務である―との見解だ。

 憲法問題は、護憲派と改憲派という国内だけの構図で捉えがちだ。安倍政権は、支持する人と支持しない人との溝が深く、その構図が際立った。それだけに別枝教授の話には、俯瞰(ふかん)的な視点の大切さを教えられた。

 菅政権の日本学術会議の新会員任命拒否に目を転じたい。こちらに感じるのは、俯瞰的どころか、目先の動きやすさに気を取られ、異論を封じる狭量ぶりだ。正規の手続きで選ばれた候補者の一部を、理由も明確にせず除外する。

 一国の政府というよりは、はんこを嫌がらせでつかない上司のいる、パワハラ体質の企業を見る思いがする。安倍政権下には、書類の改ざんを命じられたという内容の遺書を残して自死した官僚もいた。その体質を引き継いでいるとしたら残念だ。

 意思決定の素早い企業のように、実行力をうたう菅政権。携帯電話料金の値下げあたりに期待はしたい。しかし、俯瞰的視点を欠いた狭量さを押し通すなら、ゆめゆめ憲法改正など持ち出してほしくない。

(2020年10月13日朝刊掲載)

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