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社説・コラム

天風録 『核兵器禁止条約への秒読み』

 あと三つ―。核兵器を巡り、ある秒読みが始まった。針が進むたび、暗い気持ちになる世界終末時計ではない。希望を持って刻まれる「針」。核兵器禁止条約を発効させるのに必要な批准国数が、残りわずかに迫ってきた▲3日前にツバルが批准した。核実験による放射能汚染に今も苦しむ南太平洋の島国。批准国には小国が目立つのに対し、核保有国の多くは先進国で、条約にそっぽを向く。その核の傘に頼る国々も同調して冷ややかだ▲そこへ、傘の下から「核のない空」をのぞいてみる国が出てきた。米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するベルギーである。「禁止条約が核軍縮にどう弾みをつけられるか検討する」と打ち出した。核廃絶へ小さな動きがまた一つ▲もっとも心配なタイムリミットもある。米国とロシアの核軍縮条約が来年2月に失効する。延長交渉は難航している。合意できなければ、終末時計の針が進みだしてもおかしくない。核大国の無責任さに憤りを覚える▲傘の下の島国はどうか。「保有国と非保有国の橋渡しに努める」というが、動きは見えてこない。時計はどちらへ刻まれるのか。被爆国が座視していてはなるまい。

(2020年10月16日朝刊掲載)

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