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連載・特集

核兵器禁止条約発効へ <中> 「依存国」説得 次の目標

肯定的政策や書簡発表

 核兵器禁止条約の来年1月の発効は、歴史的な節目ではあるが決してゴールではない。核兵器の保有国や「核の傘」に依存する国々を、どう引き込めるか。条約発効を見据えた努力はすでに始まっている。

転換促す動き

 「国家の防衛において核兵器のいかなる役割も拒否するべきだ」「核兵器による保護を求めることは、核兵器が安全をもたらすという危険で間違った考えを広める」。9月下旬、日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)加盟の欧州諸国など22カ国の元首脳ら56人が公開書簡を発表した。

 日本をはじめ米国の核の傘に依存する国々の元政策責任者が、自らも支持していた政策を転換するよう自分たちの国に呼び掛ける。とりまとめたのは、2017年にノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))」だった。

 「われわれは核の傘に依存する国々に対して圧力を強めている」とキャンペーン・コーディネーターのダニエル・ホグスタ氏(33)。核保有国の切り崩しは難しいため、まずは核依存国を仲間に引き入れたい、との意図を明かす。

 世界164カ国・地域の約8千都市が加盟する平和首長会議(会長・松井一実広島市長)は、核保有国や核依存国の都市の加盟増を目指している。都市の連帯によるボトムアップで国の参加につなげたい考えだ。

 実際、新たな動きが出ている。「この条約が多国間の核軍縮にどんな新しい弾みをつけることができるのか、検討する」。欧州のベルギーで、今月1日に発足した中道左派系の新政権が条約に肯定的な政策を発表したのだ。

 NATO本部があり、米国の戦術核が空軍基地に配備されるなど、核依存国の中心的な役割があるベルギーでは、19年の世論調査で国民の64%が条約参加を支持。同国の態度は少なからず世界に衝撃を与え、ICANは歓迎の意向を示している。ただ、ベルギーが条約批准に向けて先へ進むかどうかは見通せない。

 広島大大学院の永山博之教授(56)は「核兵器は非人道的という国際世論は高まっても、核保有国に核軍縮交渉を進めさせる力にはならないだろう」と指摘。米国では11月の大統領選で核軍拡にかじを切ったトランプ大統領の苦戦が報じられているが「核政策の根幹は、誰が政権を握っても基本的には変わらない」と断言する。

米国が「暴挙」

 核保有国は「非保有国との間の対立を深めるだけだ」などと条約に反発している。中でも米国は、複数の国に条約批准を取り下げるよう迫る「暴挙」に出ている。日本も条約に背を向けたままだ。

 ノーベル平和賞の授賞式にICANを代表して出席したカナダ在住の被爆者サーロー節子さん(88)は6月、条約参加を求める書簡を世界197カ国・地域の首脳に一通ずつしたためた。「あの苦しみを生き延びた者の『繰り返させたくない』という思いを、人間同士の交わりの中で受け止めてほしい」

 コロナ禍の被爆75年の節目に、高齢の被爆者が力の限り発した声。一部の国から前向きな反応を得たという。日本や核保有国からの返答を待ちわびている。(桑島美帆、山本祐司)

(2020年10月28日朝刊掲載)

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