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連載・特集

緑地帯 大上充子 広島俳句今昔 <5>

 広島市内の三つの原爆養護ホームで俳句教室を毎月担当して14年になる。「生徒」には原爆に遭われ、苦しい中を生き抜いてきた高齢の人が多い。笑顔で目を輝かせて耳を傾けられる。

 2月に入って新型コロナウイルスの影響で、郵送による通信句会を余儀なくされた。通信だけでは句意が読み取れず随分苦労した。9月から教室の一部を再開することができ、本当に喜んでいる。

 例えば「薄暑なりいつまで続くみえぬ悪」という句は、通信では何を言いたいか伝わってこない。実際の句会では直接作者の気持ちを聞くことができる。「下五の『見えぬ悪』って何?」「コロナのことよね」「じゃあはっきりコロナと言いましょう」「コロナの禍としたらよく分かりますね」―といった具合だ。話ができ、ほっと笑顔をもらう。こんな調子で1時間余り。古里や子ども、孫の話を聞くこともある。

 みなさん新聞への投句に関心が高く、掲載されると大喜び。句会に切り抜きを持ってこられる。こんな時が幸せで、俳句を続けてきて良かったと思う。佳(よ)い句があると、ともに喜び、心ほのぼのとして元気をもらって帰る。

 句会を心待ちにされる人がいることが何よりうれしい。でも高齢化で教室に来られなくなる人もいる。一緒に笑っていた人が休んだら、体調が悪くなったのか、入院されたのかと心配になる。

 教室を続けてこられたのは、ホームの職員のご協力あればこそと感謝している。3教室合同の「句集すみれ」も発行し、今年で48集を数える。(広島俳句協会事務局長=広島市)

(2020年11月14日朝刊掲載)

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