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連載・特集

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート⑤

 1993年、益田市の「草花舎」で個展を開いた時、自画像や草花などを緻密に写し取った鉛筆画で知られる画家吉村芳生(よしお)さん(1950~2013年)と初めて会話した。「原仲さん、ブルース・ナウマンが好きなんじゃね」と言われ、現代美術に詳しい人だと思った。吉村さんは自分で撮った草花の写真を拡大トレースして、色鉛筆を使って描いた。私は作品を細部まで見つめ、色を空気のごとく扱いながら紙の上に定着させるその技に感嘆した。美術全般を常に勉強されていて、会う度に刺激を受けて時を忘れて話し込んだ。

 防府市出身の吉村さんは東京で版画を学び、広島市のデザイン学校で5年間教えた後、帰郷。何千枚もの自画像を書き続け「新聞と自画像」シリーズを生み出した。35歳で自然豊かな山口市徳地に転居。2007年、山口県美術展大賞の受賞が発端になり、「六本木クロッシング2007・未来への脈動」(東京・森美術館)で一躍脚光を浴びた。

 私は毎年、友人知人にヒロシマへの思いをはがきに書いてもらう「Hiroshima time」というシリーズを作り続けている。吉村さんは必ず、12年にパリに滞在していた間も、はがきを届けてくれた。また「これは原仲さんへ」と、「新聞と自画像」の作品を渡してくれた。ヒロシマや原発事故などを報じる新聞紙面に自画像を印刷したものだった。

 63歳という若さで亡くなられたが、東京という情報が集中する場所から千キロ近く隔たった故郷で自らの表現を追究し、答えを出された。空前絶後の素晴らしいことだと思う。(美術家=広島市)

(2020年11月26日朝刊掲載)

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート①

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート②

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート③

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート④

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート⑥

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート⑦

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート⑧

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