×

連載・特集

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート⑥

 新型コロナウイルスが人類に危機をもたらしているように、われわれは地球規模で様々な問題に直面している。気候変動や資源の枯渇、格差の拡大、#MeToo…。最も大きな問題の一つに、核兵器の異常な数の存在がある。

 「ヒロシマ時刻 HIROSHIMA TIME」という作品をつくり始めて25年が過ぎた。原子爆弾が上空580メートルでさく裂した瞬間を「0001年1月1日」とする時刻のことである。この惑星は自転しながら太陽の周りを公転し、どの暦も周期は1年である。グレゴリウス暦で2020年8月6日は、ヒロシマ時刻では0076年1月1日である。

 人類は75年前、初めて兵器による核分裂の強大なエネルギーによる放射能で被ばくした。その事実は記憶し続けなければならない。原爆の惨禍を起点として時を刻み続けることは、誰にでもできる継承の手段であると考える。時の概念は人類共通のものだから、世界中の人々はヒロシマ時刻との関係性を持つことができる。

 2000年、ドイツのハノーバーの美術展に参加した。ヒロシマ在住の被爆者に、ヒロシマ時刻を印刷したはがきにその日の思いを書いてもらい、ハノーバーの駅前通りに設置した大型の郵便受け宛てに送ってもらった。近年は友人知人に参加依頼の手紙を届け、はがきにハチロクへのメッセージを書いて展覧会場宛てに発送してもらう作品を継続している。75年前に被ばくという実体験を経たヒトはやがて地上からいなくなるが、その記憶は放射能の半減期の数万年をも超えて未来永劫(えいごう)、忘却してはならない。(美術家=広島市)

(2020年11月27日朝刊掲載)

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート①

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート②

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート③

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート④

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート⑤

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート⑦

緑地帯 原仲裕三 ヒロシマと現代アート⑧

年別アーカイブ