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被服支廠の利活用検討 広島知事「国・市と協議」

 広島県の湯崎英彦知事は9日、広島市南区に所有する市内最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」の利活用について、国と市を交えた3者で検討を進める考えをあらためて示した。この日始まった県議会一般質問で「国や広島市にも当事者の立場で加わってもらい、検討を進める」と述べた。(樋口浩二)

 建物の保存や耐震化について、最大会派の自民議連の下森宏昭県議(三次市)が「最終的な方向性の判断は、利活用を踏まえるべきだ」と指摘したのに答えた。ただ検討を始める時期は明言せず、方向性を決める作業と並行して進めるとした。最終的な方針決定の時期にも言及しなかった。

 県は10月、れんが壁の強度が想定より高く、1棟当たり28億円とした耐震化費用を約3分の1に圧縮できる可能性があるとして、耐震性の再調査を始めた。耐震性の有無と活用の度合いに応じた4パターンで概算工事費を固め、今月中に公表すると説明している。

 ただ、自民議連の間では「耐震化費用は、仮に圧縮できたとしても巨額であることに変わりはない。どう使うのかを定め、維持管理費も含めた総費用を明示するべきだ」との声がくすぶる。総費用を導くには建物をどう利活用するかが欠かせず、湯崎知事が答弁した3者協議の行方が注目される。

 再調査は当初、現地調査を10月中に終える予定だったが、11月下旬まで延びた。建築の専門家たちでつくる有識者会議から、正確に強度を把握するため、地下の構造や鉄筋の配置を詳しく調べるよう助言を受けたのが理由。現在は調査結果を分析しているという。

 被服支廠は、県の2017年度の耐震診断で倒壊の恐れが指摘された。県は19年12月、所有する3棟について「2棟解体、1棟の外観保存」とする安全対策の原案を公表したが、着手していない。被爆者団体などは国所有の1棟を含む全棟保存を求めており、保存の規模が焦点となっている。

旧陸軍被服支廠
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年の完成で爆心地の南東2・7キロにある。13棟あった倉庫のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は、築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして、2019年12月に「2棟解体、1棟外観保存」の安全対策の原案を公表。県議会の要望などを受け、20年度の着手は先送りした。4号棟は、所有する国が県の検討を踏まえて方針を決めるとしている。

(2020年12月10日朝刊掲載)

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