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被服支廠耐震費は半額 広島県再調査 1棟活用17億円 保存方向性に影響

 広島市南区に残る最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」で、広島県が進めていた耐震性の再調査の結果が17日、判明した。耐震化して保存、活用するために必要な概算工事費は1棟当たり17億7千万円で、2017年度の前回調査で見込んだ33億円のほぼ半額となった。県が今後、最終判断する保存の方向性に大きく影響しそうだ。(樋口浩二)

 再調査は、コンクリートとれんが造りの建物と同時期に周囲で築かれ、今春に取り壊したれんが塀を用いて、れんが構造物の耐震性を探ったのがきっかけとなった。簡易診断で「震度6~7の地震で倒壊する恐れが低い」との結果が出たのを受けて10月から、建物のれんが壁の強度や基礎、防水性能などを調べてきた。

 複数の関係者によると、県は再調査で、3階建ての建物を鉄筋とともに構成するれんが壁の強度が、前回調査時の想定より高いと確認した。その上で、保存・活用の4パターンについて、概算工事費を探った。

 内部を使える三つのパターンでは、耐震性を確保するための耐震改修をする。そのうち1階を博物館、2階と3階を会議室などとして最も活用する案は17億7千万円で、前回と比べて15億3千万円減った。1階の3分の1のスペースを会議室として使う案は13億2千万円で、9億8千万円減。前回算出していない内部の見学だけに対応する案は5億8千万円だった。

 耐震改修をせず、外観を保存して外部見学にとどめる案は3億9千万円で、1千万円下がったという。

 県は再調査を始めるにあたり、概算工事費を「3分の1程度に減らせる可能性がある」と説明していた。今回判明した縮減額は見立てと比べると小さい。県は近く、建築の専門家たちでつくる有識者会議に示す。

 これまでの被服支廠の存廃議論では、保存する場合の巨額の費用をどう手当てするかが最大の課題となってきた。工事費の減少幅が具体的に示されることで、湯崎英彦知事が保存の最終的な方向性を決断する環境が整いつつある。

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年の完成で爆心地の南東2・7キロにある。13棟あった倉庫のうち4棟がL字型に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は、築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして、2019年12月に「2棟解体、1棟の外観保存」とする安全対策の原案を公表。全棟の保存を求める被爆者団体や、県議会の意向などを受け、20年度の着手は先送りした。4号棟は、所有する国が県の検討を踏まえて方針を決めるとしている。

(2020年12月18日朝刊掲載)

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