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連載・特集

中国地方2020回顧 歴史・文化財

埋もれた「戦前」に光

寺町廃寺跡 発掘が終了

 今年は江戸時代に縮景園(広島市中区)が築かれて400年の節目だった。旧広島藩主浅野氏の広島入りから400年だった昨年に続き、被爆以前の広島の歴史継承にまつわる動きがあった。一方、新型コロナウイルスの影響で、顕彰や学びの活動は停滞を余儀なくされた。

 広島市文化財団は3月、原爆資料館(中区)本館下で2015~17年度に実施した発掘の報告書をまとめた。16世紀末に城下町として始まり、原爆で破壊されるまでの生活遺構が見つかった。平和記念公園一帯が被爆以前に中島地区と呼ばれ広島の中心街であった記憶は、被爆75年を経て薄れている。文字通り埋もれた歴史に光を当てる意義深い調査だった。

 地震対策が急務の広島城天守閣(同区)を巡って、広島市はいったん解体し木造で復元した場合の概算事業費を約86億円と試算。復元後は修理などを加えれば数百年の耐用年数を得られるとした。

 一方、耐震改修の場合、費用は約1・4億~9・8億円に抑えられるが、30年の延命にとどまるという。本年度内に有識者会議から意見の提出を受け、検討を進める。歴史を守り伝えることはもちろん重要だ。だからこそ多額の費用がかかる本事業は、市民への丁寧な説明が求められる。

 三次市の国史跡「寺町廃寺跡」では、同市教委が18年度から3年計画で進めていた発掘調査が終わった。約40年ぶりの発掘で全国4例目となる木製灯籠跡が見つかるなど重要な発見があった。7世紀中頃の地方の大規模寺院として、古代の仏教文化の広がりを知る手掛かりになりそうだ。同市教委は21年度末までに報告書をまとめる。

 中世の出雲大社(出雲市)の遷宮などについて記した古文書178通が新たに見つかった。大社の祭祀(さいし)をかつて担った出雲国造北島家に伝来していた。大社だけでなく、地域の戦国大名尼子氏の研究にも寄与しそうだ。

 さまざまな催しが新型コロナの影響を受けた。上田流和風堂(西区)は3月に予定していた、旧広島藩家老上田家に伝わる茶道具などの特別公開を中止した。

 今年は同家の祖で武将茶人の上田宗箇(そうこ)が縮景園を築庭して400年の節目だった。ただ本年度の入園者数は今月15日までで8万6千人と、昨年度の29万5千人を大きく下回る。動画のウェブ配信を活用し、図書館司書が関連本を紹介したり、美術館学芸員が展示作品を解説したりする試みがあった。

 感染拡大が小休止した秋以降、室町時代の画僧雪舟の生誕600年を記念する動きが続いた。現在の総社市に生まれた雪舟は、山口の大名大内氏の保護を受けるなど、中国地方と縁が深い。山口県立美術館(山口市)は10~12月、同館の管理する雪舟画を紹介する特別展を開催。11月には日本水墨画美術協会が、同市内でシンポジウムを開いた。

 山口市や益田市など雪舟ゆかりの中国地方6市は、雪舟作と伝わる庭園などを観光客に巡ってもらう計画「雪舟回廊」を提案。10月、国のガーデンツーリズム登録制度の認定を受けた。歴史を核にした広域連携、観光振興の取り組みはコロナ禍で不完全燃焼だったが、継続に期待したい。

 コロナ禍が文化活動を妨げたことは間違いない。だが、自粛明け後の展示会などに集う人々は一様に満足そうな表情を浮かべた。歴史探究という文化的営為は豊かに生きる糧だと実感した一年でもあった。(城戸良彰)

(2020年12月23日朝刊掲載)

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